第3話 技術大国
「本当に良かったのか?」
「良かったのか?って僕たちが着いてくこと?」
「あぁ。君達程の実力者の、最初の冒険を俺の調査なんかにして良かったのかってな」
「別にこだわりないから大丈夫。それに」
「ハグラァドさんにはお世話になりましたからね。お仲間さんももう居ませんし、私達で良ければ少しくらいはお手伝いさせてください。それに、私達にだってメリットがあるお仕事ですし」
キラキラとダイヤモンドダストの舞う雪原の中、大量の荷物を軽々と背負ったノートゥーンとその前を地図を見ながら歩くハグラァドとルシィーナはそんな会話をしていた。
「ま、それならいいんだがよ。えっと何処まで話したかな」
「話が逸れましたし、もう一度最初からお願いしてもいいでしょうか?ウチの可愛い妹に今度こそきちんと聞かせて上げたいので」
「うっ」
(余計な事言わないでよシィー)
(あら、お勉強は大事だよノーちゃん)
「ハハッ、もちろんいいぞ。なんだって今回の目的地、技術大国コルド・ア・カルドまではこのペースで行っても1ヶ月くらいはかかるからな。時間は幾らでもある」
そう言ってハグラァドは厚手のコートから手書きであろう地図を取り出す。
「さてそれじゃあまずこの地図の左上、ここが今俺らのいる永劫不朽の氷結地とも言われてる大陸全土が雪と氷で覆われている極寒の大陸カルラドアコアだ」
「なんか地図が中途半端に途切れてるけど、それはその地図が小さいから?」
「いや、これから先はまだ未開の地なんだ。真ん中のタガティマって書いてある大陸以外の四つの大陸はまだこれだけしか分かってないってことだな」
「ふーん。じゃあこの左上の村みたいなマークが僕らの故郷って事?」
「そういう事。極北の村はカルラドアコアの探索における最前線にある村として有名だったからな」
「その割には人とか年に1回来るか来ないかだったよね?」
「この大陸の魔物は大きくて強いのが多いからねー。冒険者さんもなかなか来られなかったのよ。ですよねハグラァドさん」
「あぁ。寒いせいかしらんがこの大陸の魔物はデカい上に強くてな。で、そんな大陸で数百年に渡って続いていた国家が今向かっている歯車ノ国とも言われる技術大国コルド・ア・カルドだ」
「どういう国なの?」
「さっきも言ったが技術力に長けた国でな、魔物が強いせいで国土も都市も大きい物が一つだけだったが、タガティマやテリアラムダと同格の大国だった」
「つまり?」
「小さいけど強い国だったのよ」
「なるほど」
地図を懐に仕舞いながらそう言うハグラァドを横目に、いつも通りノートゥーンはルシィーナに分かりやすく説明して貰い、その様子をハグラァドは微笑ましげに見ていた。
「で、小さいのに強かったのはその技術ってやつのせいなの?」
「そうだ。他国ではまず見ることの無い一切木が使われてない街、極寒の地での生活を支える基盤、そして冒険者を躊躇わせる魔物を歯牙にもかけない軍事力。これら全てがその技術を元に成り立っているんだ」
「へー……強いのそれって?」
「この世界の奴は普通ノートゥーンみたいに大型の魔物を一人で倒せないんだよ。それこそトップクラスの冒険者、討伐隊、もしくは勇者とかでもない限りな」
「ふーん。ま、実際に見てみればわかる話か」
「だな」
「でも実際、大型の魔物を退けるなんてどんな兵器なんでしょう?」
「さぁな?ただコルド・ア・カルドは魔物を操る技術を開発したなんて噂もある程だったし、それが一夜で崩壊するだなんて一体どんな魔物に襲われたんだろうな。とはいえ、この大陸自体人が来ないのもあってあんまり情報もない不気味な国ではあったからなぁ」
少なくとも跳ね箱以上だ、それこそ二人が探している竜かもななどとハグラァドと盛り上がっていたルシィーナが、ふとノートゥーンが黙っている事に気が付き後ろに振り向く。
するとそこにほつまらないといった表情のノートゥーンが小さくしていた翼を大きくして立っており、次の瞬間ハグラァドとルシィーナは小脇に抱えられる。
「ちょっ、ノーちゃん!?」
「おい待てノートゥーン!何するつもりだっ!」
「このままずっと喋っててもつまんないし、さっさとそのコルド・ア・カルドとやらに行く事にした」
「そ、それってまさか……」
「そういう訳で飛ばすから2人共喋らないようにね」
小脇に抱えられた二人はノートゥーンがそう言い終わるが早いか否か、一歩二歩と助走をつけ力強く地面を蹴り空へと舞い上がったノートゥーンにより、本来1ヶ月かかる距離を2時間でゆく空の旅へと招待されたのだった。
そして遠目に薄らと見えていた街の影がハッキリと見えてきた時……
「ハグラァド」
「……なんだ」
「これが大国なの?」
「正直、思ってたよりも酷い状態だが。あの動きを止めた斜めになっている超巨大な二つの歯車、あれは間違いなく技術大国コルド・ア・カルドを示す物だ」
上空数百メートル、小脇に抱えられたままの体勢でノートゥーンに問いかけられたハグラァドは何かが燃える黒煙と、コルド・ア・カルドの血とも言える白い蒸気があちこちから上る街だと思っていた廃墟を見てそう答える。
「様子を見るに滅んでからまだ日が浅い?」
「でもコルド・ア・カルドの崩壊の影響で私達の里を襲った魔物が来たとしたなら、もう一週間近くは立ってる筈です!つまりまだ生きてる人が居る可能性があります!ノーちゃん!」
「ん、わかった。とりあえず目を走らせるね」
ルシィーナに頼まれコルド・ア・カルド内部に着地し、二人を下ろしたノートゥーンがそう言って手を軽く握りしめると、ボトリと音を立ててノートゥーンの肘から先が取れて地面に落ちる。
そして地面にその腕が落ちた途端、まるで葡萄のように腕から黒い球体が無数に生え初め、それらに1本線が入ったと思うと次はそこから目が現れ、更にその黒い球体に足が生えた所で腕が消え去り、目玉達はあちこちへと散開する。
「え?い、今腕が……でも腕が。え?え??」
「あー……どうしよう、シィー」
「あはははは……私も焦ってたからお願いしちゃったけど、きちんと説明した方が良さそうだね。えっとハグラァドさん?」
「なっ、なんだっ?!」
「今のはノーちゃんの竜としての権能の1つでして、任意に体を変化させる能力「突然変異」を使って生き残りを探して貰っているんです」
「正直、ノートゥーンの事をただ単に珍しい種族かなんかだと思ってたが……こんなの見せられちゃ魔物でもないんだし本物の竜だって事に納得せざるを得ないな」
「やっと認めてくれた。さて、片腕分も使ったんだしこのくらいの大きさの街なら後数秒程度あれば全部探索出来ると思うけ……ど」
「ん?ノーちゃんどうかした?」
「いや、なんでもない。それよりも生存者見つけたよ。数は4人かな?ここから北西のー……あの大きい歯車の根元辺りに居るね」
「了解。んじゃあこの国に何が起こったのか聞くためにもまずはそこに行くとしよう」
ハグラァドのその意見に二人も賛成し、ノートゥーンの案内の元、折れたパイプから蒸気が登り、あちこちに穴が空いた狭い石畳の地面を歩いて行く。
道中、時々歩かせていた目を吸収しながら進むノートゥーンにハグラァドは最初こそ何か言いたげだったが、腕が元に戻る頃にはもう何も言うまいという顔をしていた。
そしてそうこうしているうちに生存者を見つけた場所までたどり着いたノートゥーンは、見張り用に付けておいた最後の目玉を回収すると手をぐっぱぐっぱと動かし、その手で傾いた歯車に立てかけられてた鉄板を退かす。
「……生き残りか?いや、見た事ないな。誰だアンタら」
「私はルシィーナ、そしてこの子はノートゥーン。で、この人が────」
「タガティマから来た調査員、ハグラァドだ。即座にとは行かないが事の経緯を話してくれれば身の安全と今後の生活の保証を約束しよう」
「タガティマ?」「た、助かった……」「怖かったよぉー!」
(思ったよりも消耗はして無さそうだ。良かったねシィー)
(あら、なんの事かな?)
(この国の状態を見て1番焦ってた癖に)
「よし、それじゃあ全員分かることを説明してくれ。その後軽く調べてから────」
「おい待て、何勝手に進めてんだ
奥で様子を見ていたそのウシャンカ帽を被り眼帯を付けた細身の大男は、子供達から話を聞こうとしていたハグラァドの前に立ち塞がり、いきなり掌底を打ち込んでくる。
「させない」
「ちっ、面倒な……」
「そっちこそ、弾いたのにただの拳で衝撃波出せるなんておかしい話だよ」
(シィー、巻き込むかもだから離れてて)
(わかった)
「ハグラァドさんこっちです!」
「わかった。頼むぞノートゥーン」
ノートゥーンにテレパシーでそう伝えられたルシィーナは、ノートゥーンが翼を大きく広げ相手がこっちに来れないようにしているうちにハグラァドを連れて距離をとる。
そして二人が充分に距離を取り終えた時、大男とノートゥーンによる戦いが始まるのだった。
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