第3話

(空、青いな……)


ベンチに腰かけ、流れる雲を視界に写しながら現実逃避をする虎太。

その理由はたった一つ。


「これからどうしよ」


そう、これからやるべき事。これに尽きる。

現実逃避をしつつもこれから頭切り替えないといい加減やばいなー、と考えさっきまでの記憶を思い出す。


虎太はこの広場に着く前の道すがら平静を装いつつ周囲を観察し、今自分がいるこの場所は「ファルコンの雄叫び」と関係のある町であると判断した。


判断基準は至ってシンプル。漫画で見た通り、店、服装。

たったそれくらいしかないのだが、漫画を読み続け、尚且つゲームまで遊んでいた虎太にとっては判断するに十分な情報量だった。


ここがどこの町か、どんな名前か、なんてことはさすがに分からない。漫画に無い町かもしれないし、漫画に載っていたかもしれないがそもそもそこまで詳しく覚えていない。


それに「ファルコンの雄叫び」の登場人物がいるだけで漫画の世界では無いかもしれない。

この世界だからこんなことがある。と確信を持って行動すると痛い目を見るかもしれないので注意しなくてはならないと身震いする。


そして考える。もし仮に「ファルコンの雄叫び」の世界であるならば俺はこれから……


(絶対に安全な場所で引こもる。)


唇を歯で噛み締めて思い出すのはここに来る前、よく目にした漫画やゲームのあの舞台。

「ファルコンの雄叫び」は王道バトル漫画である。何の変哲もない少年が道中出会う仲間と共に成長、強大な敵を相手に敗れるもパワーアップして仲間と共に撃破。そしてまた次の戦いへ、というバトルofバトルな世界観。

お前ずっと戦ってんな、休息って知ってる?と言わんばかりの展開。


さらに言えば敵を倒してもどんどん新しく強い敵を増やしていくので必然的に仲間や主人公の修行や覚醒でパワーアップ、序盤は町のチンピラ相手に戦ってた癖に原稿版の今では神様と戦ったりしてるのだから戦闘力よインフレも激しい。

戦いに巻き込まれなんぞしたら本気で命がいくつあっても足りない。


だからこそ虎太は引きこもるという思いを切実に胸に誓う。しかし危機感ばかりも続かない。

それもそのはず彼は大の「ファルコンの雄叫び」ファンである。実際にそんな世界に来てしまって危機感から続く冷静さも長くは続かない。

徐々に高まる高揚感がアルコールのように体を巡る。


「キャラクター達に会えるかも、なんなら俺も技が使えたりしちゃったりして!」


高まった高揚感のエネルギーはその勢いのままもう止まれねぇぜ!と言わんばかりに先程まで真剣に今後を考えていた虎太の雰囲気を霧散させ、尚且つ虎太を椅子から立ち上がらせた。


この世界に来るまでやっていたゲームのように虎太は力を貯める動作を真似してみる。


「うおおおおおおおっっっ!!!」


普段だったらただカッコつけてゲームの真似して叫んでいるだけだったその風景はいつもとは大きく異なった。まるでここがゲームの世界である事を示すかのように。

力んだその瞬間。虎太の体内に熱く迸るようなエネルギーが漲る。その余波に立っていた地面は姿を保ちきれずにひび割れるがテンションが上がり、主人公になりきっている虎太は気付かない。


グッと拳を握り締めて熱意の籠った紅い闘気が右腕を包む。繰り出すのは主人公が悪魔に喰らわせた炎の一撃。

ゲームて幾度も見た動きを完全にコピーして解き放つ。もちろん技名も合わせて。


「撃ち抜け!ファルコンストライク!」


気合一閃。突き出された腕から紅い闘気が風圧とともに前へ前へと飛び出していき、鳥を形取り、そのまま上空へと飛び出して行った。


「えっ」


広場はざわめき、泡を食って逃げ出す人も出る始末。虎太としても本当に出るなどとは思っておらず冷水をあびせられたようにさっと身体が冷えていく。


ヤバい、本当に出るなんて。

何これ、ていうかなんかヌルッと出来たな、だとしてもなんで主人公の技使えんのよ俺。

そんなことある?そんなことある?いやちょっとわかんないし考える時間が欲しい。と、とにかくテンパりまくる虎太。


だとしてもとにかく今は逃げるべきか、と考えて慌てて走り出そうとする虎太に声がかかる。


「今の技、教えてください!」


振り返れば燃えるような赤い髪と同じ色の瞳。元気で熱血な少年のお手本のような雰囲気の少年がキラリと炎のような瞳を輝かせてハツラツと話しかけてきた。


「トビタカくぅぅぅん!!??」


なんで原作主人公がいるのさっていうかさっきの技見られててあばばばばばばばばばば

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