【書籍化・コミカライズ化】天空の異世界ビストロ店 ～看板娘ソラノが美味しい幸せ届けます～

番外編

第198話 魅惑のシャルキュトリー

　シャルキュトリーという言葉をご存知だろうか。

　それをわかりやすくいうならば、食肉加工品という身も蓋もない言い方になる。ハムとかソーセージのことだ。

　材料は三つに分類できる。「塊肉」「挽き肉」「内臓・血」。

　元々は肉の保存性を高めるために編み出された製法だ。

「ソラノはシャルキュトリーの中で何が好きだ？」

「私は生ハムが好きです」

　仕事に入る前、賄いを食べているソラノはカウマンに問われて迷うことなく答えた。今現在食べているのが生ハムだからとか、そういう安易な理由ではない。まあその時食べているものに影響を受けることも多々あるけれど。

　うすーく切った生ハムがバラの形に巻かれて、付け合わせのサラダの上に乗っている。それをフォークで刺して、口に運んだ。

　ほどよい塩気の乗った生ハムは生野菜にちょっとした刺激をもたらし、サラダと生ハムのどちらも美味しく食べられる。

「生ハムって……罪な食べ物ですよね」

　十分に咀嚼し、その味わいを余すことなく堪能したソラノはカウマンにそう零した。話を聞いていたレオは首を傾げている。

「透き通るような薄ピンクの色味に、少し筋張った噛み応え。噛むほどに出て来る塩味。もっと食べたいと思わせる控えめな量。どれを取っても文句のない食べ物です」

「そうか？　俺はもっとボリューム満点のどっしりとしたソーセージが好きだな。バジルが練りこまれているやつはそれだけで酒によく合う」

「それも捨てがたいね」

　焼かれたソーセージのパキッとした噛み応えと溢れる肉汁を思い出したソラノは間髪入れずに同意した。ハーブ入りのソーセージは確かに、肉脂を爽やかに中和してくれるので量があっても食べられる。

「何を言う。サラミだって捨てがたいぜ。胡椒が効いた味わいはツマミに最適だ。何より歳を取ると酒と一緒に脂っこいもんを大量に食べると胃にもたれるからな。俺はサラミが好きだ」

　カウマンが力説するので、今度はソラノの口内にサラミの味が再現されてしまった。生ハムとは違った弾力ある歯ごたえと濃い味わい。ソラノはピザに乗っているものが好きだ。そういえばこちらに来てからピザを食べていない。材料はあるから今度作ろうか……そしたらカイトさんも呼ぼう。

「アタシはハムがいいねえ。厚切りにすればそれだけで晩のおかずになる」

「ハムステーキ！　美味しいですよねえ」

　マキロンの主婦的な発想にソラノも同意した。ハムステーキは特別感があって、ハムなのにごちそうっぽい。薄切りハムはトーストとか朝ごはんにぴったりだけどハムステーキは断然晩ごはん用だ。

「うーん、どれも良いですよね」

　ソラノの言葉にカウマンは同意した。

「ああ、シャルキュトリーは皆美味しい」

「考えてたら食いたくなってきた。カウマンさん俺、賄いにソーセージ焼いて良いっすか」

「おう、焼け焼け」

「アタシも晩ごはんはハムステーキにしようかねえ」

「今日の夕食担当はマキロンさんでしたもんね」

　カウマン一家の夕飯は持ち回り制だ。ハムステーキならば焼くだけだから、今度ソラノも作ろうと心に誓う。

　ふと、ソラノはこの場にいて一人、全く会話に参加してこないバッシをちらりと見た。

　彼は厨房の奥で料理の確認をしているのだが、視線は宙を彷徨っており焦点が定まっていない。どことなく遠くを見ているようだ。

「バッシさん、どうしたんですかね？」

「さあ……最近ずっとあんな感じなんだよ。気味悪いさね」

「はぁ……」

「あ、ため息ついた」

「ったく、腑抜けてんなぁ」

　カウマンが眉間にしわを寄せてバッシの態度に苦言を呈す。

　本当にどうしたんだろうか、とソラノも首をかしげた。