空港職員のお弁当編
第19話 月の綺麗な夜
月の綺麗な夜だった。一人の男が甲板の上に出て、夜空を眺めている。雲の上を進んでいるので夜空は存外に美しい。その船は雲海の上を滑るように進み、グランドゥール王国の空港を目指している。目的地ではない。グランドゥール王国はただの中継地点だ。
その空港に寄ることは男の本意ではない。グランドゥール王国の検閲は近頃厳しく、ただ中継にしているだけであっても船荷を検められることがある。
ーー全く余計なお節介だ。王国で降ろすわけでは無いのだから、中身が何であれ目をつむっていて欲しい。
ならば寄らなければいい、という簡単な話ではない。男が来たのははるか南の国。そこから目的地である西方諸国へは長旅となり、ずっと飛び続けていたのでは飛行船の物資が不足してしまう。丁度いい補給場所がエア・グランドゥール空港しかないので、致し方なく着港する。
「閣下、夜風はお体に障ります」
甲板に出ている男へと声をかける者がいた。
「問題ない。アレらはどうしている?」
「眠っております。出国したことにもまだ気づいていないでしょう」
「ならば良い」
この船は客船ではなく貨物船だ。交易のために荷物を運び、そうして運んできた荷物の代わりに西方の特産品を積んで帰って行く。今回の積み荷は南国特産の果実に葉巻、そしてーー珍しい生き物が少々。
「知られるわけにはいかない。エア・グランドゥール空港に入る前にもう一度魔法をかけ、見張に手練れをつけておけ」
「はっ」
男の命に従い、音もなく下がっていく。
グランドゥール王国さえやり過ごせれば、後は万事つつがなく終わる。失敗は許されない。
男は甲板に手をかけて今一度月を振り仰ぐと、そのまま踵を返して船内へと入っていった。
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