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駅の次にあいつを見たのは、会社だった。
書き損じたメモをくしゃくしゃにして、一瞥もくれずに足元のゴミ箱へ捨てた。朝に片付けたばかりだったから、底に当たる、あの軽い音がする筈だった。
ぺちょ、という情けない手応えに、思わず下を見た。あいつがそこにいた。黄色いプラスチックのゴミ箱に、すっかり収まってこっちを見ていた。微動だにせず、ゴミを気にする様子もなく、そこにいた。
それから俺は怖くなって、見なかったことにした。お菓子の外袋や丸めたティッシュでさっさとゴミ箱を埋めた。
その間もあいつは全く動かなかった。ただただゴミの隙間から、俺に無機質な視線を向けるだけだった。
ゴミ箱が一杯になってから、足早にゴミ捨て場に行ったんだ。異様なくらいずっしりと重たくて、甘ったるい臭いが鼻をついた。
でかい回収ボックスに向けてひっくり返すと、ゴミにまみれて赤黒い塊も落ちたのを見た。
空っぽになったゴミ箱の内側には粘液が乾いてこびりついていた。
その次は居酒屋だった。
同僚と飲み交わしながらふと上を見上げると、吊り下がった灯りの傘にくっついて、あいつがこっちをじっと見ていた。
その次は実家だった。随分前に死んだ犬の小屋にいた。
その次は彼女の家。ベッドの下にいた。
その次は帰り道。
昨日は自宅のドアに引っ掻き傷がついていた。次は俺の家なんだと思う。
どうして俺なんだ?俺がおかしいのか?
疲れてるみたいだ。もう寝よう。
また、明日。
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