3

 四角い部屋を想像してくれ。


 ドアを開けて。

 電気をつける。

 中に入ると、正面の壁際に机がある。カーテンを閉め切った窓もある。


 右にはベッド。左にあまり使っていないキッチン。ローテーブルの上にカップラーメンの容器と、読みかけの雑誌。


 机に向かう。カーテンは閉まっている。

 ノートを取り出して、筆記用具は何でもいい。俺はこの文章を書く。紙に意識を注ぐんだ。少しでも他のことを考えてしまえば、あれに思考が囚われることを知っている。


 ああ、でもどうしよう。

 こうして書き殴っている間にも、チラチラと脳裏に過ぎるんだ。あいつが壁をよじ登る姿が。


 窓に張り付いて内に這入ろうとしている。七本の脚がガラスを引っ掻く。きいきい耳障りな音がするんだ。カーテンは閉まっている。うぶ毛の生えた脚の先に、黒ずんだ爪が伸びている。

 にちゃりと音を立ててあいつが口を開く。黄ばんだ臼歯がぎっちり詰まってる。



 待ってくれ。

 一体どうして俺はカーテンを開けているんだ?



 窓の隙間から粘液が染み出してくる。長い毛の混じった、糸を引くねばつきのある汁が。


 じわじわとこちら側にやってくる。

 甘ったるい臭気を漂わせている。

 形を取り戻して。

 笑ってる。

 俺の頭を撫でてくる。

 その手が



 頭蓋骨を


 つらぬいて


 脳を




 意識を戻す。

 カーテンは閉まっている。窓の向こうには何もいなかった。酷い妄想だ。ひたすら紙に文字を記す。思いついた単語をひたすらに、ひたすらに。


 やっぱりやめよう。

 脈絡のない単語の羅列じゃ回る頭を止められなかった。


 また、明日。

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