第24話:二人の出した答え
「合同チャンネル……か」
俺は思わずそう呟いてしまう。
〝ゆっくり考えてくれと言いたいところだが、時間はない。三日以内にどうするかを返事して欲しい〟――それだけを言い残して御堂さんは去っていった。
「いきなり言われてもね」
<ひめの>も俺と同じ思いなのか、複雑な表情で空を見上げた。
「俺は……ひめのんだけ出ればいいと思う」
「私だけで出るぐらいなら、辞退するよ」
そうキッパリ言い切った<ひめの>を説得するのは難しそうだ。
だが俺だけ出るなんて、それこそ論外だ。そりゃあVtuber活動は楽しくなってきたけど、それは<紫竜ひめの>がいるからだ。なのに俺だけイベント出るなんて間違っている。
となると、合同チャンネルにするしかないのだが……、俺の口からそれは言い辛い。
「なんかさ、悔しいよね。二人とも頑張ったのに、無所属だからってだけでこんな酷い対応されるなんて」
「信じられないよ。だけども、俺らが泣こうが喚こうが変わらないってのも分かる」
「うん。きっと御堂さんも悔しかったんだと思うよ。だからあんな無茶な提案をしてきた。彼はそれでいけると言ったけども、アルタ側がそれに怒ってイベントを中止させる……かもしれない」
俺達が原因である――なんてことは表には出ないだろうが、事情を知ってしまった俺も<ひめの>も穏やかではない。
「私達の都合でイベントを中止にさせることなんて出来ない。でも、このまま引き下がるのもやだ」
「そうだな」
<ひめの>が……いや竜崎さんが負けず嫌いなのを俺は良く知っている。
俺としては、俺を踏み台にして駆け上がってほしいんだが、彼女はきっとそれを許容しないだろう。
だったら――
「合同チャンネル作ろうよ。新しく作るか、どっちかのチャンネルを消して片方に集約させるかは分からないけど……そうするしかない」
俺はそうはっきりと言葉にした。
俺を踏み台にしたくないのなら、
だけども彼女は俺に背を向けて手すりの向こうの空を見るばかりで、すぐに返事をしなかった。
俺はそれ以上何も言わず、リアルと違って様々な物が浮いているアルタの空を見上げた。その空は、普段なら心躍るような光景なのだが、今は、ただ突き抜けるような青空が見たかった。
空には、雲以外の物は浮かばない方がいいな。そんな気持ちになってしまう。
「……うん。そうだね。それしかない。これはチャンスなんだ。チャンスがまだ残されているなら、なりふり構わずやるしかない」
ようやく<ひめの>が口を開いて、そう言葉をこぼした。
「俺の粗相団チャンネルは消して、ひめのんのチャンネルに合流でいいと思う。新しく作るより、確実にチャンネル登録者数三千人を超えているチャンネルを残す方がいい。俺の方はアンチとか変なのもいるからね」
「……そうだね。団員のみんなに謝罪しないとだけど」
「あいつらはひめのんのチャンネルに大概登録してるだろうし、大丈夫だよ。事情は説明しないが、きっと分かってくれる」
「うん、みんな良い人だもんね」
<ひめの>がくるりとこちらを向いたかと思うと、突然――
「え!? え!?」
「ごめんね……ありがとう。私、自分だけで何も出来ないのに……ほんとに駄目なんだよ」
俺に抱き付いてきた。温かく柔らかいその感触に頭がおかしくなりそうだ。
叫びたい気持ちを抑えて俺は、冷静になる。クールだ、クールになるんだ俺を!
「あ、いや全然駄目じゃないよ! ひめのんは凄いよ! 俺がそれを一番良く知っているから!」
でもきっと、この想いは伝わらない。でも今はそれでいい。
「……優しいね。私は色んな人の優しさに助けられている気がする。りったん、団員さん達、御堂さんだってそう」
「それは強みであるし、ひめのんの人柄もあるよ」
「そうかな?」
「そうだよ。俺という存在がそれを証明している」
俺がそう言うと、<ひめの>は俺の胸の中でコクリと頷いた。
しばらくして彼女が俺からゆっくりと離れた。リアルと違い、彼女が泣いていたかどうかなんて分からない。でもきっと彼女は泣いていた。
そんな確信があった。
「でも……合同チャンネルになったら、チャンネル名困るね」
「そうか? 今のひめのんのやつのままで良いじゃん。シンプルで」
「私は――りったんと粗相団チャンネルのみんなが好きだから、やっぱりそういう感じにしたい」
「うーん、でも粗相団は流石にな」
粗相したのは俺だけだし……。
「じゃあ騎士団にしようよ! 私は自分で言うのも恥ずかしいけど、このアバターは竜のお姫様をモデルしてるし、りったんは騎士だし」
「シンプルに、<ドラゴンナイトチャンネル>ってのは? 二人の要素も入ってて合同っぽいし」
「良いね! あとはまあリスナーの反応次第かな?」
「そうだな。うっし、今日早速発表しようか」
「うん! 御堂さんには私から伝えておく」
その後、俺達は細かい話をあれこれしたあとに、それぞれの動画で合同チャンネルになることを発表するべく、動画を準備しはじめた。
<ドラゴンナイトチャンネル>が――間もなく誕生することになる。
☆☆☆
イベント運営会社<デュランド>――企画室。
既に社員は全員帰っており、一人残った御堂が、終わらない仕事をせめて明日には段取り良くできるように整理していると、メッセージの通知音が鳴った。
「ん? お、<紫竜ひめの>からか。思ったよりも早かったが……どういう結論になった?」
御堂がメッセージをデバイス上で開けると、そこには短い文と、アルタ内の動画アドレスが添付されていた。
『本日提案していただいた件について、二人で結論を出しましたのでご確認ください』
御堂は迷うことなく動画を開く。
そこには、同じ画面内に堂々と立つ二人のVtuberがいた。
それは<紫竜ひめの>と<盾野リッタ>の二人によるコラボ動画だった。
『重大発表があります。私、紫竜ひめのと――』
『俺、盾野リッタは――合同チャンネルを開設することになりました!! なぜかだって? そりゃあもちろん――』
画面内ではしゃぐ二人の姿を見て、御堂を思わず笑みを浮かべてしまう。
……益々こいつらの事が好きになっちまうな。
『『大人の事情です!! 察しろ!!』』
二人が笑顔で声を合わせ、堂々とそう宣言したのを見て、御堂の笑みがすぐに苦笑に変わっていく。
コメント欄は案の定、盛り上がっており、概ね合同チャンネルは好意的に受け入れられている様子だった。
「ま、そもそも<ひめの>のチャンネル登録者はほとんど<粗相団>の連中だしな」
御堂は、二人が<
「――仕方ない」
御堂はデバイスを手に取ると、通話を開始した。
「……お世話になっております、<デュランド>の御堂です。ええ、はい。千石さんに伝言をお願いします。ええ、例の件で、指示通り――
通話が終わり、天井を見上げた御堂が再び深いため息をつく。
「俺に出来るのはここまでだ……あとはお前ら次第だぞ」
久々に……リアルでも煙草が吸いたいな、御堂は思いながら作りかけていた資料へと視線を移した。
そこには――空に浮かぶ、鬱蒼とした森に沈む遺跡と恐ろしい
『<
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