第25話:<ドラゴンナイトチャンネル!>


 とある土曜日の夜――


『はい、というわけで、合同チャンネルになって初めての動画配信、なんと生配信です! 緊張するね、りったん』

『ドキドキだよ! というわけで、改めて――<盾野リッタ>だ!」

『<紫竜ひめの>だよ!』

『二人で始める――』


 映っているのは、二人のVtuberだ――今、SNS上でにわかに注目されつつある、この夏のイベントのダークホース――


『『ドラゴンナイトチャンネルへようこそ!』』


 二人が笑顔で声を揃えてそう叫ぶと、一緒に飛び上がった。


***

・うおおおおおおおおお合同チャンネルきたああああああああああ

・既定路線?

・なわけねえだろ

・なんか心なしか、二人とも前より可愛く見える……

・恋……だな

・てえてえポイントが天元突破してるぞこれ

・しかし大人の事情ってなんなんだろうな

・デュランドと揉めたとか?

・無所属で出るの初だもんなあ、色々あるんだろ

***


『まあとにかく、これを皆さん見てください!』


 そう言って、<ひめの>が空中にウィンドウを展開させる。そこにはとあるメッセージが映し出されており、件名にはこう書かれていた。


 〝<燎夏りょうか大祭たいさい>参加権を獲得しました〟


『正式に運営から参加が認められたよ!! やったぜ!!』


 <リッタ>が拳を突き上げた。



***

・おおお!

・無所属初じゃね!?

・快挙だな

・流石ダークホースだぜ

・というかどういうイベントなんだろうな

・去年は、砂漠横断クイズバトルだったな

・オアシスでの水着強制は神でしたね

・あの運営、毎回ガラリと変えてくるから読めないな

***



『今回は、史上最多の参加者数となる一大ビッグイベントらしいから、多分、全員が一斉に参加できる企画じゃないかな?」


 <ひめの>の言葉に、<リッタ>が答える。


『全員が参加……運動会とか?』

『有り得るかも! でも私運動苦手……』

『俺、自慢じゃないけど、いっつも体育だけ成績良かったから任せろ!』

『あはは! そんな感じがする!』

『そこは、〝そんなことないよりったん〟って言って欲しかった!』

『りったん意外と乙女みたいな心理でめんどくさっ!』


 ケラケラと笑う<ひめの>を見て、<リッタ>が少し拗ねたような表情を浮かべた。



***

・団長が体育だけ成績良かったの、想像できて草

・意外とひめのんが攻めという

・というかひめのんのキャラが変わった……?

・変わったというか、一人で喋るだけなのと、二人で会話するのとでは変わるのが普通

・団長がひめのんの良さを引き出してる気がする

・まるで最初からコンビみたいだな

・だから規定路線だって。お前らピュアすぎ

・↑ソースはよ

***



『でもね、イベント内容については完全に伏せられてて当日説明があるらしいんだけども……少しだけヒントがあるんだよね。りったん、ここの部分、読んでくれる?』

『おっけー。えー、コホン。〝今回のイベントは参加者数が最多となりました。つきましてはイベントのフィナーレとなるステージパフォーマンスに関しましては、今回の目玉となるメイン企画における出場可能とさせていただきます。メイン企画については、かつてない規模と波乱に満ちた内容となっており、更に今回からはリスナー参加型となっております。それぞれのチャンネルのリスナー数、そしてリスナーとの連携が重要となってきますので、是非とも当日までにリスナー数を増やしていただければ幸いです〟――だとさ』



***

・リスナー参加型!?

・おいおい、上位三組ってマジかよ

・今年はステラもななねも出るし無理ゲーだろ

・いや、企画次第ではワンチャンあるぞ。去年だって無名の新人が最後残ったろ

・ライルがそうだったな

・俺らが何かしらの要素に絡んでくるってこと?

・粗相団の力を合わせる時が来たようだな

・誰か関係者いねえのかよ。こっそりリークしろよ

・いたとしてもするわけねえだろばーか

***



『気になるよね! リスナー参加型ってことは多分、リアル投票によるランキングとかじゃないかな?』


 <ひめの>が、空中にイベント内容の予想案を表示していく。


『投票?』

『うん。多分、何かしらのパフォーマンスとか競技とかがあって、それを見ているリスナーが好きなVtuberに票を入れる。これの上位三組がフィナーレに出場って感じ』

『そうなると、俺らは圧倒的に不利だよなあ』


 <リッタ>が顎に手をやり、物憂げな表情を浮かべた。


『当日の頑張り次第だよ! 私達を知らないリスナーを魅了するしかない!』

『おお……! ひめのんのやる気が凄い! でも俺達を知らないリスナーは、誰かのリスナーなわけで。その人から票を奪うってのは中々に難しそうだな』

『そうだね。私達は持ち歌やパフォーマンスがあるわけでもないし……』

『でも、ひめのん、歌上手だよね?』

『うーん……素人に毛が生えた程度だよ……』

『でも、<空乃ステラ>……さんの歌は振り付け込みで全曲完コピできるって言っ――』

『あああ、それここで言っちゃだめえええええ!!』


 慌てて<リッタ>の口を塞ぐ<ひめの>だったが、時既に遅し。



***

・全曲完コピ!?

・ガチ勢w

・団長失言してて草

・ポカポカ殴られてる団長、推せるわ~

・生配信りったんは危険。はっきりわかんだね

・ひめのんの歌聞きたいなあ

***



『ごめんって! でも、前見せてもらった時、凄い良かったよ! それにほら、ひめのんはダンスも練習し――』

『それも言うな馬鹿あああああああ!!』

『ごめんなさいいいいいい!!』



***

・りったんがポンコツすぎる

・ダンスも練習中か! 楽しみすぎる

・団長、失言しかしてなくて草

・団長も練習しろよw

・団長が踊れるわけないだろ!

・りったんは応援担当だから……

・フィナーレ用のパフォーマンス、ちゃんと考えてて安心したw

・それな

・流石に無所属だとオリジナル曲とかないしなあ

***



『ちゃんと練習してるよ! りったんは……もう知らない』

『ごめんって! というかそのフィナーレ? とかも今日知ったし! 俺何すりゃいいの!?』

『応募要項ちゃんと読んで!』

『さーせん!』


 平謝りする<リッタ>と、それを見て笑う<ひめの>。


 そんな何とも仲睦まじい光景に、コメント欄も加速していく。



***

・テエ…テエ…

・ハア…ハア…みたいに言うなw

・ここがキマシタワー建築予定地ですね

・尊み秀吉じゃ!

・可愛すぎる

・完全に夫婦で草

・眼福……

・りったん、なんも分かってなくて草生える

・団長がポンコツすぎんよお

***



『というわけで、どういうイベントになるか当日まで分からないけど……リスナーのみんなが多分、鍵になるから……改めて、私達をよろしくお願いします!』

『お願いします!! 俺もなんかパフォーマンス、練習しときやす!』

『ほんとにね! それじゃあみんな、またね!』

『ひめのん! 締め台詞忘れてる!』

『あっ! 〝竜の祝福がありますように……!〟』


 取って付けたように<ひめの>がそう言うと、動画は幕を閉じた。


 その後もコメント欄では、どんなイベントになるかの予想が白熱していった。


 そうして、一ヶ月が過ぎ――ついにイベント当日がやってきた。

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