第21話:条件クリア


 俺と<紫竜ひめの>のコラボ動画が配信されて、僅か一時間後。


『無所属Vtuber、展望台で大立ち回り』

『仕込み? やらせ? 無所属応援系Vtuber<盾野リッタ>、人気Vtuberの為にダイブ』

『〝無名の騎士〟、ちゃんと騎士だった』


***

・りったんかっけええええええええ

・剣が有効活用されているの初めて見たw

・盾も使えよ

・あれ、ドイツ剣術っぽい動きだったな。流石だてにリッタを名乗ってないな

・りったんの眼、一瞬だけどなんか光ってなかった?

・↑カメラが後ろからだから、わからんな

・団長、ひめのんの前では敬語で草

・展望台からダイブする奴初めてみたwww

・モザイク掛かってたけど、あれ、ラスネのガラビットとななねだろ

・仕込みにマジになるV民、かっけええ

・↑ガラビットのブイ垢見てこい、ガチギレしてるからマジっぽいぞ

・ラストネイルの事務所はノーコメントっぽいね

***



 などなどのネットニュース、コメントや書き込みがSNSに続々と投稿されていき、更に――


『<戌際ななね>、例の動画に爆弾コメント。〝リッタさんにガチ恋です〟』


 わざわざモザイクを掛けたのに、あのメイド、助けられたのが自分だと発言しやがった!!


 しかも俺は知らなかったのだが、<ななね>はラストネイルの看板Vtuberらしく、妹/メイド系Vtuberの頂点というとんでもない人気Vtuberだったらしい。


 おかげで変なアンチも増えたが……それでも概ね俺達の動画は好意的に受け取られ、今度は<盾野リッタ>と<紫竜ひめの>の両方がトレンドに乗った。


「これは……いけるぞ」


 あっという間にその動画の再生回数はを突破した。


「凄い、凄いぞ! 俺は恥ずかしすぎて直視できんが、凄い勢いで再生回数とチャンネル登録者数が増えてる!」


 <盾野リッタ>と<粗相団チャンネル>の人気が急上昇しているし、それに引っ張られるような形で、<紫竜ひめの>のチャンネル登録者数も増えていく。


 そして翌日の朝には――


「ご、五千人!? ひめのんの方も三千人を超えてる!!」


 一晩で、俺達の動画は<燎夏りょうか大祭たいさい>の出場条件とも言うべき、チャンネル登録者数三千人を突破したのだった。


「だから言ったじゃない、さっさとコラボしろって。でも、あんたのお馬鹿ムーブのおかげね。いやあ、あんた昔からたまにネジが数本外れた動きすることあったけど、こうマジマジと見させられると……我が弟ながら、キモいわね」


 姉がケラケラと笑いながら、ネットニュースを俺に見せ付けてくる。ネジが外れているとか言うな!


「あんたの真似して、展望台からダイブする馬鹿が増えたせいであそこ、進入禁止エリアになったって。凄いね~あんたらの動画でアルタ運営が動いたわよ」

「お、俺は好きでダイブしたわけじゃ……」

「そうね~。しかし、この<ななね>って子、可愛いわねえ。あたしもあんたじゃなくてこういう可愛い妹が欲しかったなあ。ねえ、あんた盾野リッタの方向性を変えて、媚び萌え系にならない?」

「なったとしても、中身は俺であることに変わりはないんだぞ」

「……やっぱり無しで」


 ええい! 姉なんかに構っている暇はない。


 俺は<盾野リッタ>として、メッセージを<紫竜ひめの>へと送る。文面を十回見直して、変なことを書いていないかを確認する。


 よし、送信開――ってうわあああああああ!!


「つ、通話掛かってきた!! どどどどどどうしよう!?」

「知らないわよ。さっさとアルタにダイブして折り返しなさい」

「そうする!」


 俺は自室に飛び込む、枕元に置いていた携帯型VRダイブ機器を装着してベッドに横になる。


 世界が暗転し、気付けば俺は<盾野リッタ>の姿となって、指定ログイン位置にしていたプライベートスペースの中で立っていた。


 すぐに、通話を折り返す。


「あ、ごめんね、急に!」

「いや、大丈夫! それよりチャンネル登録者数!」

「うん! 三千人超えたよ!! 凄いよ……たった一回のコラボ動画で。やっぱりりったんは凄いよ。全部りったんのおかげだね。本当に……ひぐっ……ありがとう」


 ああああ、ひめのんが泣きそうになってる!


「いや、違うって! ひめのんが動画を撮ってくれていたから出来た動画だし! 俺だけじゃないって!」


 俺が必死にそう訴えるも、しばらく通話の向こう側で<ひめの>は泣いていた。


 絶望的だった三千人が突破出来た嬉しさ、<燎夏りょうか大祭たいさい>に出られる喜び、そういう感情がごちゃ混ぜになって押し寄せているのだろう。


 何も出来ない自分がもどかしい。


 そうしてしばらく通話越しに泣くひめのんが落ち着くのを待って、俺は声を掛けた。


「夏祭、何とか出られそうで良かった。申請しないとね」

「……うん。ごめんね、泣いちゃって……なんだか、嘘みたいで」

「大丈夫。申請とか俺、さっぱりわかんないんで、また教えてくれる?」

「うん! それも動画にするかなあ」


 ひめのんがVtuberの鑑みたいなこと言いだした! この人、なんでもネタにしないと気が済まないタイプなのか……?


「あはは、ひめのんが良いなら、俺はいいよ。申請だけなら、早々ハプニングはないだろうし……」

「だね! じゃあスケジュール合わせよっか。コラボ動画の振り返りもやっても良いかもね」

「は、恥ずかしすぎて、俺死んじゃうやつそれ!」

「それをリスナーは求めているからね」

「うー……それは確かに」


 ひめのんは俺のリスナー達のツボを良く分かっていらっしゃる……。


 それからしばらく、次の動画の打ち合わせとスケジュール合わせをして、その日を終えた。


 申請と振り返り動画は、撮ったあと編集してすぐに投稿された。鉄は熱いうちに打て、ということらしい。当然ながら――その動画もそれなりに再生されることになる。


 だけども、俺達はまだまだ甘かった。


 俺達は『大人の事情』とやらに――翻弄されることになる。

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