第57話 「最終的な決着はもうそれしかないかなーって」

異能者いのうしゃたちとしての独立──ですか」


 国や権力者に良いように使われてきた異能者たちによる大規模独立勢力の立ち上げ──その話が正式に持ち出されたのは、青森奪還後の作戦会議の場だった。

 誓矢たち率いる異能者部隊に、東北各地で独自に抵抗していた異能者たちの集団も加わり、相応の規模まで膨れあがっていた。

 今後の動向を定めるにあたって、それは避けて通れない話だった。


「正直、今、僕の口からはどうこう言うことはできません……」


 異能者たちに囲まれた誓矢は口を濁そうとするが、その場の雰囲気は逃げを許さなかった。

 いつもなら、なんだかんだでフォローしてくれる光塚みつづかたち──青楓学院せいふうがくいん時代からの仲間たちも、この時ばかりは誓矢に助け船を出そうとはしなかった。


「ああ、もう……わかった、わかりました! とにかく、とりあえずは北海道の奪還です。今の話はその後でキチンと決着をつけますから!」


 それは事実上、異能者たちの要求を誓矢が呑んだ瞬間だった。

 そして、最後に残された北海道奪還作戦へ向けて異能者たちは一致団結して事に当たっていく。


「よっしゃ、まずは青函せいかんトンネル奪還だ!」


 光塚みつづかが威勢の良い声を上げる。

 青函トンネルでの戦いに関しては、あえて、誓矢を温存する方針が採られた。

 狭い空間内で戦闘空間が限られることから、異能者たちの波状攻撃で対応できると判断されたのだ。

 そして、結果は成功のうちに終わる。


「いっけー! 氷狩ひかりだけが異能者じゃないって、みんなに思い出してもらおーぜ!」

「そうね、私たちだってフラストレーションが溜まってるのよ!」


 光塚と絹柳きぬやな率いる異能者部隊が、激しい勢いで青函トンネル内にひしめく怪物たちへと切り込みつつ、戦線を押し込んでいく。

 その後ろから、入れ替わるように厳原いずはら風澄ふずみの部隊が続いた。


「光塚も絹柳さんもホドホドにしとけよ、俺の出番がなくなったら恨むぞ」

「まあ、トンネル内の怪物たちもまだまだいるはずだから、冗談抜きで無茶はしないでよね」


 さらに、数部隊が編成されており、その彼らが交代しつつ、休みなくトンネルの中の怪物たちを打ち倒していった。

 誓矢とユーリ・シーラ兄妹は一番後方につけている。

 今回は出番無しの予定だが、万一、後方に怪物が発生した場合、それを排除するという役割もある。

 誓矢たちの護衛についている森宮もりみやが暇そうに杖を弄んでいた。


「なんか、光塚君たち、楽しそうですね。私も前線に出ればよかったかも」


 ユーリが皮肉っぽい口調で話しかけながら誓矢の肩に手を回す。


「ってゆーか、今の誓矢に護衛なんて必要あるのか?」

「ユーリ兄様! なにごとも油断大敵です! 何かあったら、シーラたちは命を賭けてお守りしないといけないんですよ!」

「お守りする──っていうか、オレたち、もうユーリのエネルギータンク的な扱いじゃね?」


 そう自嘲するユーリに「そんなことないもん!」と殴りかかるシーラ。

 そんな二人を「まあまあ」と仲裁する誓矢に、森宮は「やれやれ」といった風に肩をすくめる。


「それはそれとして、なんかことが順調に進みすぎていて、なんか拍子抜けなんだけど」


 その誓矢の言葉どおりに、青函トンネル奪回から箱館地域の開放まで、事態はなんのトラブルもなく、あっさりと進んでしまった。


 ○


 函館市内にある大規模ホテルの一つに誓矢たちは北海道内の本拠を定めた。

 誓矢たちに助けられた現地の異能者と住民たちの好意で温泉施設も使えるようにしてもらったことから、本州からの遠征組は交代でゆっくりと疲れを癒していく。

 そして、数日後、大ホールに異能者たちが集められた。


「あ、えっと……その、みなさん、とりあえずお疲れさまです」


 誓矢の気の抜ける第一声に、異能者たちは苦笑を隠せない。

 だが、東北奪還作戦からずっと一緒に戦ってきたことで、誓矢の控えめな、それでいて決めるときは決める性格は好意を持って受け入れられていた。

 そんな雰囲気を察したのか、誓矢も少しは緊張がほぐれたようだった。


「それで、前に言っていた件、異能者たちの独立についてですが、そろそろタイミング的にも良いかなーとか思いまして」


 自分たちは現在は日本政府の管理のもとで戦っている。その向いている方向に関しては共通の思いもあるし、異存はない。

 だが、その過程、方法で道具やコマの様に使い捨てられる現状は受け入れがたい。


「なので、日本を、世界のみんなを救うために、僕たちは少なくとも日本政府と対等の立場に立って、自分たちのことは自分たちで決めて進んでいきたい──そう思います!」


 一瞬の沈黙、そして、爆発する歓声。

 この日、日本の異能者たちによる大規模独立勢力──フェンリル防衛隊が正式に発足する。

 そして、独立後、最初の作戦目標は北海道全域からの怪物の駆逐と定められた。


 ○


「……うん、北海道はなんとかなりそう」


 ホテル内の会議室で机に突っ伏したまま誓矢は、隣で書類をテキパキと処理するユーリとシーラに声をかける。

 視線を書類から逸らさずに返事だけするユーリ。


「本命のイベントはその後ってか」


 誓矢は「正解」と、顔を上げずに手だけ振ってみせる。


「異能者のみんなを率いての神界突入──ラグナロク。最終的な決着はもうそれしかないかなーって」

「おもしろいじゃねーの」


 そう言って、ユーリは決済が必要な書類を誓矢の頭の横に勢いよく置いた。

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