第56話 「もう少しだね──」
東京都内にある米軍基地へと帰還した誓矢たちは、そのまま自衛隊へと合流、復隊することになる。
正直、誓矢たち異能者の面々にとって、自衛隊へと再度組み込まれることに関しては強い抵抗があった。
プロメテウスの扱いをみても、権力者や指導者たちは、異能者たちを容赦なくコマとして使い捨てることがわかっているのだ。
そんな中、誓矢たちが帰還したことにより、様々な手続きが進められる中、怪物たちは北海道を蹂躙し、青函トンネルを通って東北地方まで浸透してきていた。
「こんなことしている場合じゃない!」
とどめ置かれた自衛隊基地の宿舎の中で、さすがに怒りを爆発させる誓矢。
そこへ、再び自衛隊の制服を纏ったユーリと、同じく制服を纏ったシーラがあらわれた。
「作戦が決まったよ──怪物を押し戻すだけの力押しだけどね」
ユーリが説明する作戦の内容は以下の通りだった。
まず、部隊を二つに分ける。
一つは日本海側担当部隊──誓矢を主力とし、弧を描くような形で怪物たちを太平洋側に押し出す。
そして、もう一つは太平洋側担当部隊──
「そっか、今回はみんなと別行動なんだ……」
誓矢があからさまに不安の表情を見せる。
ここ最近、ずっと行動を共にしていた光塚たちと別れることは誓矢にとって大きな喪失だった。
だが、そんな誓矢を光塚たちが明るく励ます。
「別れるっていっても、日本海側と太平洋側ってだけだからな。今までの作戦の規模を考えると狭い方だろ」
「ああ、それに、今回はフォルストたちが同行するんだろ?
冗談めいた口調で
厳原の言うとおり、この作戦以降はユーリと、その妹のシーラは誓矢に同行することになっていた。
「とはいっても、オレたちはセイヤのエネルギータンクみたいな扱いだけどな」
ユーリがヤレヤレといった風に肩をすくめると、その横からシーラがひょこんと顔を覗かせる。
「シーラは全然大丈夫だよ! セイヤのこと気に入ってるし、いくらでも力をわけてあげるから」
そう言って投げキッスみたいな素振りを見せるシーラに、誓矢はけっこうですと手を挙げた。
「その……キスはいいから……手を繋ぐか、肩を掴むか、そーいうのでお願いします。というか、お兄さんの目が怖いんですけど」
「いやー、セイヤくん。目覚めたばかりのオレの妹に気に入られてヨカッタですね。親友と妹が仲良くなるのはウレシイコトデスヨ、いや本当に」
「だから、本当に目が笑ってないって……」
部屋の中に笑いが弾ける。
ちなみに、シーラの存在──というか、詳細はまだ語られていない。その余裕がなかったからというのが大きな理由だが、見た目は元気で、性格も明るく、誰にでも人懐っこく接する少女の姿に、今、無理に問い質す必要は無いと判断されたのだった。
○
そして、第一次北方奪還作戦──東北地方掃滅作戦が開始された。
「セイヤ、今だ! 撃てっ!」
装甲車の内部からユーリが声を上げると、上部ハッチから上半身を出していた誓矢の両手の銃から無数の光条が全方向へと放たれる。
ユーリは再び狐神スズネ、ヤクモと縁を結ぶことで誓矢を含めた精神領域の共有を実現し、怪物たちの探知と目標設定を誓矢と分担することで、より広範囲、かつ大多数の怪物を一度に攻撃できるようになっていた。
もちろん、その分消耗も激しくなるのだが、そこはシーラが誓矢にエネルギーを補給する役割を果たしていた。キスは誓矢が断固として拒否するので、手を握る形での補給になっている。
「それじゃ、みんな、順番に並んでくださーい!」
ちなみに、シーラも誓矢に渡す分、当然、自らのエネルギーも消耗する。
そのエネルギーを補給するため、随行する自衛隊員たちから少しずつ、生気を分けてもらっていた。
──シーラちゃんの握手会。
殺伐とした討伐軍の軍隊の中、場違いな行列ができていたりもしたが、これも作戦のためと言い聞かせるユーリ。
自分のカワイイ妹が、さながらアイドルのように若い兵士たちと握手を重ねていく様子を隣で睨みつけながら、歯ぎしりしていたのだった。
○
そして、東北征伐は大成功に終わる。
怪物たちは、いったん青函トンネルの中へと撤退し、誓矢たち異能者はトンネル出口に戦線を構築、次の作戦への移行準備をはじめる。
合流した異能者部隊も、当初より人数が大きく増えていた。
東北各所で孤立しつつも人々を守るために戦っていた異能者たちも、誓矢たちに助けられることで合流を果たしていたのだ。
「もう少しだね──」
その誓矢の言葉に、ユーリや光塚たちが力強く頷く。
彼らは一つの決断を胸に秘めていたのだ。
まずは、この先にある北海道を取り戻し、残されている人々を救い出す。
そして、その先は──
「神々の出方も気になるが、今はとにかく先に進むだけだ。みんな、よろしく頼むよ」
「「「おう!」」」
作戦地図を前にしたユーリの激励に、光塚以下、異能者たちの仲間が口々に応えるのだった。
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