第54話 「そんなにオレとキスがしたいのか?」

「「うおおおおおおおっっっ!」」


 滅多に見ることのない気迫のこもった誓矢せいやの姿に、光塚みつづか厳原いずはらも興奮したように声を上げる。

 先ほどの基地西方に続いて、北方へ誓矢が放った光柱は同じように怪物たちを一掃する。


氷狩ひかり! あと二射いけるか!?」

「残りは東と南!」


 光塚と厳原の声に「大丈夫!」と叫んで、続けざまにスズネとヤクモの力を借りて光の主砲を撃ち放つ。

 頭の中で真っ白に燃え尽きた様子の狐神たちにお礼と侘びを伝えてから、誓矢は手にした銃を双銃形態へと変化させる。


「それじゃ、基地の中に入りこんだ怪物たちを排除する!」


 誓矢の双銃から無数の光の矢が放たれた。

 複雑な軌道を描いて基地内に侵入している怪物たちを追いかけ、そして突き刺さっていく。

 門や柵に取りついている怪物たちを狙い落としたかと思うと、今度は前庭に入りこんだ怪物──さらには建物外で異能者たちに襲いかかろうとしている怪物たち全てに青銀色の光が降り注ぐ。


「なんか、俺達の出番がなくなっていくような……」

「まあ……そうかもな」


 猛然と銃を撃ちまくる誓矢の姿に、ポカンと佇むだけの光塚と厳原。

 だが、誓矢はくるりと肩越しに二人へと振り返る。


「そうでもないかもしれない……ゴメン、ちょっと悪ノリしすぎたかも」


 エネルギー切れ──誓矢はテヘッと笑うと同時に、その場に崩れ落ちた。


「……って、最初からエネルギー配分考えておけよ!」

「まあ、ツッコミはその程度にしておけ。撃ち漏らしたザコが上ってくるぞ」


 厳原が誓矢を輸送機の中へと担ぎ込み、すぐさま外に飛び出して、建物をよじ登ってくる怪物たちの姿を確認する。

 二人は輸送機を守るように位置取りした。


「ようやく、俺達の出番だな!」

「まあ、最近活躍の場が少なくてフラストレーションが溜まってるからな」


 近接戦闘を得意とする光塚と厳原の二人は、最近はもっぱら誓矢の護衛役を務めているが、能力的には一部隊を率いることができるエース的存在でもある。

 つい、誓矢の圧倒的破壊力に目が行きがちだが、この二人がいるから、誓矢も安心して怪物の殲滅だけに専念することができるのだ。

 そんな彼らにとっては、この危機的な状況に対しても余裕があった。


「氷狩のヤツが回復するまで時間を稼げばいいだけだしな」

「ああ、ミッション難度としては簡単すぎるくらいだぜ」


 屋上に剣とバットが振り回される音が響く。


 ○


 しばらく時間が経った後、屋上へと戻ってきたユーリが目の当たりにしたのは、無数の怪物に囲まれた輸送機と、必死に抗う光塚と厳原の姿だった。


「フォルスト君、どいて! 道を作る!!」


 風澄ふずみが光の弓から次々と矢を放ち、それに連携する形で森宮もりみやも杖から光を放って、輸送機までの間にいる怪物を打ち倒していく。

 さらに投げナイフを駆使する絹柳きぬやなが先導し、ユーリと、もう一人、ユーリが来ていた上着を頭からかぶっている小柄な少女が後に続く。

 その姿に気づいた光塚が声を上げる。


「お、フォルストと女子たちも無事だったか!」

「おかげさまで、ね!」


 ユーリと少女は戦闘中にもかかわらず気さくに手を挙げて迎えてくれた光塚の脇を駆け抜けて、輸送機の中へと駆け込んだ。


「セイヤ、まだ回復していないのか……」


 輸送機の床に放り出されていた誓矢に駆け寄ろうとするユーリ。

 だが、その彼を突き飛ばして少女が誓矢の身体を抱き起こす。


「ちょ、シーラ何をするつも──」


 ユーリの語尾が驚きで掻き消される。

 シーラと呼ばれた少女──ユーリの双子の妹の唇が、誓矢のそれに押し当てられる。


「──!?」


 声にならない声をあげるユーリ。

 その視線の先で、誓矢がゆっくりと目を開く。


「う……むぐ……ふむ? っ……むううううう!?」


 事態を把握した誓矢が手足をバタバタ動かす。

 目が覚めた途端、ユーリと似た面立ちの金髪の美少女にキスをされていてパニクる誓矢。


「はぁ……っ」


 呆れたと言わんばかりに顔を手に当てるユーリ。

 そして、誓矢が目覚めたことに気づいた少女がニッコリと笑みを浮かべた。


「わたしの力を流し込んだわ、これでまた戦える」


 その言葉にキョトンとする誓矢。そして、これがファーストキスだったことに気づいて、顔面がカアッと赤くなる。

 ユーリが外を指さす。


「まだ、外では戦いが続いているぞ、行かなくていいのか」

「あ、うん、今行く!」


 両頬を手で叩いて思考を切り替えようとする誓矢。

 キスしてくれた金髪の美少女──たぶん、ユーリの妹だとわかっているが、追求するのは後。

 だが、一つだけ気になったことがあって、すれ違い様に誓矢はユーリに尋ねる。


「あのさ、もしかして、次に力を失ったらユーリから分けてもらうことになるのかな……その、キス……で?」

「そんなにオレとキスがしたいのか?」


 ジト目で睨みつけてくるユーリに、あわててごまかすように手を振る誓矢。


「はぁ……もし、そうなってもキスなんて必要無いんだよ、手を繋ぐとかの方法で大丈夫だから」


 疲れたようにため息をついた後、ユーリは後ろにちょこんと座り込んでいる少女──妹のシーラを睨みつける。

 その視線に、テヘッと無邪気な笑みを浮かべるシーラだった。

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