第53話 「新技とか、カッコよすぎるぜ──」
吸血鬼といっても、昔からあるフィクションの物語や映画などのように、直接相手の首筋に牙を立てたり、血を吸った相手が吸血鬼化するなどといったことはない──と、ユーリはポツリポツリと話していく。
「普通の人間と同じ──基本的には食事から栄養とエネルギーを摂取できる。ただ、数日に一度程度の頻度で人間から生体エネルギーをわけてもらう必要はあるけどね」
そう言うと、ユーリは「すまない」と
「え、僕から生体エネルギー……って、なんのことかわからないけど、吸い取っていたっていうこと?」
ぜんぜん気づかなかったと驚く誓矢に、ユーリを含む他の全員が苦笑する。
ベース・プロメテウスへと向かう航空輸送機の中、一行は自然とユーリの身の上話に耳を傾けていたのだ。
誓矢以外の
光塚が問いかける。
「フォルストがボクシングの試合とかで無双してたのは吸血鬼の能力があったからなのか?」
「……うん、吸血鬼は普通の人間の何倍以上もの身体能力を持っているからね」
子供の頃に吸血鬼の力のカモフラージュのために始めたボクシングだったが、次第にその魅力に取りつかれていった。
一方で、成長するに従って他の少年たちとの差がどんどん開いていくことを悟り、わからないように手加減することも多くなっていた。
「一人だけ、本気になりかけた相手がいたんだけど、それはここで話すことでもないよね。それはそれとして、今まで戦ってきた相手には申し訳ないことしてきたと思ってるよ。このことを知ったらみんな怒るだろうな」
「そりゃそうだ」
短く
「まあ、今さらな話だけどな。重要なのはこれからフォルストがどんな行動で示すのかだと思うぜ」
厳原の言葉に頷く光塚たち。
そんな学生たちを羨ましそうに眺めていたキャリー少佐が、すまなそうに会話に割って入る。
「なんかイイ感じに青春してるなーっていう雰囲気のところに申し訳ないけど、そろそろ目的地上空よ」
その発言に、機内の雰囲気が緊張へと変わった。
キャリーが説明する。
この輸送機は垂直着陸できるので、事前の打ち合わせ通りにプロメテウス内にあるヘリポートに強行着陸させる、と。
「可能だったら補給整備しつつ、その場で待機するわ」
万一の時は再び誓矢たちを回収して離脱できるように準備を進めておく、と、締める少佐。
だが、様々な想定から、誓矢たちはプロメテウスからの退避は考えていなかった。
「なんとしても、怪物たちからプロメテウスを守ってみせます」
キッパリと言い切る誓矢に、他の面々も掛け声で応える。
○
──バリバリバリバリッ!
回転翼の音を立てて、誓矢たちを載せた輸送機は無事にプロメテウス本部棟の屋上にあるヘリポートへと着陸した。
機体から駆け下りた誓矢は、心の声──
『スズネにヤクモ、頼む。消えない範囲で力を貸して!』
二人の陽気な返事が脳内に返ってくると同時に、誓矢は両手に発言させた銃をライフル型へと合体させる。
「強烈な一撃で怪物たちをビビらせるっ!」
誓矢の持つライフルから、極太のレーザーみたいな光条──いや光の柱が基地に群がってくる怪物たちの群れに突き刺さる。
「いっけぇぇぇっ!!」
さらに銃から放たれた光の柱を横へとスライドさせていく──誓矢を中心に扇形のように広がり、大量の怪物たちを消滅させた。
「新技とか、カッコよすぎるぜ──ヒュウッ♪」
驚きを隠せない様子で口笛を吹く光塚。
照れを隠しきれない誓矢が、いったん銃を収めてみんなへと振り向く。
「前にも話したことがある狐の神様たちと考えたんだ。上手くいって良かった」
ユーリが手にした銃をホルスターに収めながら笑った。
「あいつら、まだくたばってなかったんだ。セイヤといっしょにいたんだな」
その発言に対してヤクモが抗議の声を上げる。
「久々にうるさいのが来たな」と苦笑するユーリ。
「とりあえず、オレはシーラ救出に向かう」
「わかった」
手短に役割分担を決める誓矢たち。
妹救出に向かうユーリには女子組が同行し、誓矢と光塚、厳原の男子組はここから外側の怪物を掃滅した後、内部に入りこんだ怪物の掃討に向かうという手はずになった。
光塚が声を上げる。
「忘れるな、目的は二つ。フォルストの妹奪還と怪物たちの全滅、その二つだからな」
「それと必ずみんな一緒に無事に日本へ帰ること──そのことも絶対に忘れないで」
「「「おー!」」」
続いてみんなに誓矢が声をかけると、全員が一斉に返事をした。
ユーリが誓矢に拳を掲げてみせる。
「怪物のことは頼んだ」
「うん、ユーリも絶対に妹さんを連れて帰ってきて」
その拳に誓矢も自らの拳をコツンと打ちつけた。
「──作戦開始!」
厳原の声とともに全員が一斉に動き出す。
「うおおおおおおおっっっ!」
気合いの入った声が誓矢の口から迸る。そして、再び出現するライフル銃。
青銀色の光柱が今度は反対方向へと撃ち放たれた。
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