第50話 「──ベース・プロメテウスね」
核ミサイル発射の目的地として最初に選択されたのはロシア──シベリア東部のエリアだった。
ちなみに、第二次作戦予定はアラスカで、同時に準備が進められている。
あいかわらず、
そんな彼らも当然のように作戦に組み込まれたのだ。
「今、世界各地から異能者たちが集められている。ヨーロッパから中央アジア、そして中国へとまたがるラインに配置されている」
「まさにヨーロッパから中国へ続く道、まさにシルクロードって感じね」
歴史や地理に詳しい読書家の森宮らしい表現に、絹柳がポンと手を打った。
「あ、だから作戦名もプロジェクト・シルクロードなのね」
「わかりやすいよな」
厳原は苦笑し、説明を続ける。
「日本からは俺達も含めて八割近くの
厳原の言葉に全員が頷く。
そして、その日本勢の中でも、もっとも注目されているのが、誓矢たち、チーム・フェンリルである。
誓矢が強力な対怪物掃討能力を持っていることは周知の事実であり、さらに、怪物たちは、その誓矢の存在を怖れて退避行動をとる傾向にあるということも判明している。
「だから、一番距離のあるヨーロッパ方面から戦線を押し上げていけ、ってか。どんだけあちこち駆け回らせるつもりだよ……」
光塚が「いい加減にしてくれ」と低く呻くと、絹柳が珍しくやさしげに声をかける。
「疲れてるのよ、無理もないわ。少し休んでもイイのよ、今は怪物の気配もないみたいだし」
怪物の気配──それを察知できるのも、誓矢たちの強みだった。
誓矢というか、誓矢に縁を結んでいるという狐神スズネ、ヤクモの力のおかげではあるのだが、誓矢は敏感にかつ広範囲にかけて怪物の存在をリアルタイムに感知することができるようになっていた。
もちろん、各国の軍隊も上空や宇宙からの監視により、高い精度で怪物の動きを把握しているが、タイムラグが無い分、誓矢の力の方に軍配が上がる。
「なんというか、みんな、ゴメン。僕につきあわせたばっかりに……」
シュンとする誓矢に対し、風澄がすかさず反応した。
「謝るのはナシ。私たちは自分たちの意志で
その風澄の言葉に、他の四人もそれぞれの表情で頷いて見せる。
厳原が誓矢の頭を軽く小突いてから、説明を再開させた。
「でもって、シルクロードラインから怪物たちをシベリア方面に押し込んでいくのは良いとして、もう一つ重要な要素があるんだよな」
「──ベース・プロメテウスね」
『ベース・プロメテウス』──シベリア東部に急遽建設された軍事施設である。ギリシャ神話で人類を迫害するゼウス神から人間を庇った神の名だ。最終的には苦難の末、ゼウス神との和解に至ったことから由来している。
「ようするに囮だろ」
森宮の説明後、光塚が不満げに眉をしかめると、厳原も同感だ、と言うように小さく頷く。
「プロメテウスにも多くの異能者を配置して、怪物たちの注意を引く──」
実際に誓矢たちも含めたプロジェクト・シルクロードに参加する異能者たちの奮闘により、怪物たちの動きは後退、反転し、シベリア方向へと向きを変えはじめているとの報告が入ってきている。
「プロメテウスの異能者たちは、ちゃんと脱出できるのよね」
風澄の何気ない問いかけに、答えられる者はいなかった。
もちろん、計画の首脳部は脱出計画も含めて準備万端整えていると説明している。
だが、言い知れぬ不安が、現場で戦う異能者たちの間に広がっていた。
「プロメテウスには、日本の仲間たちもいるのよね」
絹柳の言葉に、それぞれの表情でうなずく面々。
いくつか気になる点もあるのだが、そのうちの一つは、プロメテウスに派遣された異能者たちは、どちらかというと比較的能力が低いか、性格的に戦闘に向かない若者たちだという風聞もあった。
その他の噂なども含めて、楽観的にはなれない誓矢たちだった。
だが、今となっては、各国首脳の理性と良心を信じるほかない、と誓矢たちは自分に言い聞かせる。
厳原が手を叩いた。
「……今は、いろいろ考えていてもしかたない。とにかく、作戦を進めよう。氷狩──一番近い怪物の集団をつかめるか」
「うん、ここから北東方向へ直進したあたりにいるっぽい」
誓矢たちを載せる装甲車は速度を上げる。
チーム・フェンリルは、その後もロシア内部へと進み、ユーラシア大陸を東進していく。
宇宙衛星からの監視から、あきらかに怪物たちの動きがプロメテウスを目指しているという報告が上がり、久しぶりに世界中の人々の間に明るい話題が広がった。
──だが、それは最悪の形で裏切られる。
「大変だ! 予定より早く核ミサイルが発射された!!」
誓矢たちは、ロシアの地方都市、イルクーツクの国際空港近くにある宿舎でその報に接した。
久々の柔らかいベッドに潜り込んだばかりの誓矢たちだったが、現実に叩き起こされる格好となってしまった。
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