第6章 決断の時
第48話 「──ワケのわからない状況だよな」
怪物の脅威は瞬く間に世界全土を
世界同時多発的に怪物たちが一斉に出現し、逃げ惑い混乱する人々へ次々と襲いかかる。
そして、襲われた人々は怪物へと姿を変え、さらに他の人間を襲う恐怖のスパイラル。
特に悲惨な状況に追い込まれたのは、個人の権利意識が強い欧米諸国である。自らの身は自分で守るという意識と、なによりもプライバシーを尊ぶ意識。それらの理由から独自行動をする人が増え──怪物たちのエサとなってしまった。
大量の怪物に襲われ、飲み込まれる各地のコミュニティ。そして、新たな怪物たちが生み出されていく……
まさにスクリーンの中のパニック映画の世界が、現実になったかのような状況である。
『──皆さん、冷静に落ち着いて行動してください。行政の指示に従って、最寄りの避難所やシェルターへ避難してください』
テレビはどのチャンネルも同じ、人々に避難を促す内容を延々と流し続けていた。
逆にインターネット上の動画配信や情報サイトでは、怪物に関わるあらゆる情報が氾濫状態になっており、それを受け取る人々も情報パニック状態に陥っている感がある。
「なんだか、良いんだか悪いんだか、ワケのわからない状況だよな」
航空輸送機の中で、
誓矢が見ていたのは『今明かされる、怪物の正体!』という日本の放送局の一つが作成した動画である。
地上波では避難情報しか流せないため、情報系や娯楽系の番組はすべて、ネット配信で放送されている。
──ちなみに、このご時世に娯楽系の番組が必要なのかという声は一定数あるものの、こういう状況だからこそ、娯楽も必要という声に押されていくつもの動画が配信されている。
それはさておき、誓矢が見ている情報番組では、怪物について様々な専門家たちが討論を行っていた。
『怪物は神がこの世──人間界に派遣した災いともいえる存在だ、科学的に多方面から分析しても現実からかけ離れた存在、それが怪物たちなのだ』
『現状を直視すればするほど、神の存在は疑いようがない。人類の
今、怪物の正体は、神々によって人類世界を滅亡させるために派遣された生体兵器であるという認識は、世界の人々の間に、広く受け入れられていた。
もともと神の存在を信じていなかった人たちは絶望し、敬虔な信者だった人々は信仰の対象を失ってしまった。そして、それらの人々の希望の星となったのは、怪物に対抗する力を有する若者たち──
『異能者は、全世界の若者──少年少女たちの間に多く発現しています。これは、未成熟な肉体か精神に因る可能性が高いと見られています』
『異能を発現すると、怪物に対して絶大的な効果を有する武器を自由に出現させることができ、かつ肉体的、運動的機能も一定レベル強化されている。現代科学では到底説明できない現象だ』
「これって、氷狩が教授に伝えたことが発端なんだよな」
「うん、たぶん、そうなんだけど……なんか、派手に広がりすぎというか」
光塚の問いかけに苦笑する誓矢。
怪物や異能者に関する情報に関しては、
光海教授はその情報を、自らの幅広いコネクションを最大限駆使して各方面へと拡げた──その結果が現状である。
「まあ、このおかげで異能者たちへの注目が、よりいっそう高まったのは良かったかもしれない」
反対側の席に座っていた
実際、異能者の存在について曖昧だった頃は、迫害とまでは行かないものの排他的な動きもあったのだ。
それが、怪物に対抗できる唯一の存在というポジティブな情報の伝播により、人々にリスペクトされるようになったのだ。
「だけど、そうなったらそうなったで、いろいろ厄介ごとも増えてるらしいぜ」
厳原が肩をすくめて見せる。
「異能者が役に立つ──貴重な存在だとわかったら、今度はいろんな勢力が奪い合いをはじめるときた」
「あはは……」
苦笑する誓矢。
実際に誓矢の元へは各国政府機関だけではなく、各種民間企業や組織、はては宗教団体だの地域的なコミュニティだの、さまざまな団体からスカウトの話がひっきりなしに飛び込んできている。
今も、怪物の大群に首都を襲われそうになった東南アジアの国から悲鳴のような救援を求められて、急ぎ現地へ急行して怪物たちを撃滅し、次の任務のため休む間もなく日本へと帰還している途中である。
「いろいろ気になるのはわかるけど、少し休んだ方が良いわ。氷狩君の活動範囲は世界中に広がってしまっているから……本当は無理はしてほしくないんだけど」
ありがとうと言って、素直に毛布を受け取る誓矢。
「いろいろ……か」
誓矢はスマホをポケットに放り込んで、うーんと背伸びをする。
確かに気になることも多い。大きいところだと、今後の自分たちの身の振り方。このまま、日本政府に言われるがままにただただ武器として怪物を討伐し続けるだけでいいのか。そして、身近なところだと、すれ違いが続く幼馴染みのユーリのこと。日本政府──自衛隊士官として異能者たちの監視役を務めている。ユーリもまた何かの言いなりになっている──誓矢はそう確信していた。
「もしかして、寝付けない? だったら、到着するまで三時間くらいって話だから、みんなでお喋りでもする?」
「それもいいね、なんか青楓学院でのことが、だいぶ昔に思えるかも」
誓矢が笑顔で応えると、光塚、厳原、絹柳、森宮、そして風澄もそれぞれの笑顔を見せた。
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