第47話 「今回ばかりはダメそうだなー」

 巨大なライフル型の銃から放たれた激しい勢いの光線がアスタロトへと突き刺さる。


「くうっ、この力……くふっ、面白い。神々のゲームの中に不確定要素が紛れ込むのも一興いっきょうということか」


 その負け惜しみめいたセリフだけを残して、アスタロトを宿した青年の姿が掻き消える。


「やったか!?」


 気が遠くなりそうなのを必死で堪えながら、銃を構え続ける誓矢せいや


「セイヤはん、とりあえず敵さんは逃げはったようどす」

「手応えなかったからな──でも、もう銃をしまっても大丈夫だろ」


 スズネとヤクモに声をかけられて、誓矢はホッと一息をついた。


「スズネちゃんもヤクモもありがとう、助かったよ──って!?」


 狐神きつねがみたちに視線を向けた誓矢は思わず絶句してしまう。

 スズネとヤクモのサイズがマスコットサイズに縮んでしまっていて、さらにうっすらと半透明化して消えかかっているように見えたのだ。


「うちらもちょっと無理をしてしもうた……」

「その場のノリとはいえ、ちょっぴしやらかしちゃったな……」


 二人が言うには、さっきの誓矢の巨大ライフルを生み出すにあたり、自分たちの身体を媒介として神界しんかいから神力しんりょくを直接誓矢へと流し込んだことで、自分たちの力も一緒に渡してしまったということらしい。


「そんな……二人とも、このまま消えてしまったりとかしないよね……」


 誓矢の声に涙が混じる。

 まだ、一緒に行動するようになってそれほど日にちは経っていないが、それでも友達以上の関係になっていたと誓矢はあらためて気づかされていたのだ。


「いやー、それが、今回ばかりはダメそうだなー……」

「そうどすな、もう一度、サキはんや、ユーリはんにも挨拶しときたかった……」


 そう呟くと、二人はころんと装甲車の上に仰向けになって倒れてしまう。


「悪いけど、あのボロ神社のこと頼むわ……」

「そうどすなぁ……次の神が生まれることができるよう、残しておいてもらえると嬉しいわ……」


 装甲車の上の様子を見に来ようとする仲間たちを制して、誓矢は狐神たちの身体を軽く揺する。


「ちょっと待ってよ、シャレにならないこと言わないでよ。このまま消えるとか……」


 涙をぽろぽろとこぼす誓矢に、微笑むスズネとヤクモ。

 その時──二片の光の羽根が、ヒラヒラと空から舞い落ちてきた。


「これって……」


 すべなく見つめる誓矢の前で一際強く光ったかと思うと、その羽根は弱々しく笑う狐神たちの身体に吸い込まれていった。

 そして──


「おおっ! なんか力がみなぎってキター!!」


 急にヤクモの身体の透明化が止まって実体化し、当のヤクモ自身「ふっかぁーつっ!」と叫んで飛び起きた。

 同様に身体が元に戻ったスズネもゆっくりと身体を起こした。


「……天界てんかいのお方が力を分け与えてくれはったようです。感謝せなバチがあたりますな」

「天界のお方って──」


 神界と魔界、そしてもう一つの世界──天界。主にキリスト教などにあらわれる神様や天使が住まう世界だと、スズネが説明する。


「さっきの教授たちお仲間を救ってくれた方が、うちらも哀れんでくれはったんだと思います」

「悪魔公爵アスタロトを撃退したから、そのご褒美かもしれないな」


 ヤクモがピシピシと誓矢のほっぺたを叩きながら、満面の笑みを浮かべる。


「そろそろ状況を説明して欲しいんだが。そろそろそっちへ行ってもいいかな──」


 不意に装甲車の下から教授の声が聞こえてきた。

 慌ててスズネとヤクモはポワンという間抜けな音とともに姿を消してしまう。

 誓矢はハッチから装甲車内部へと戻り、車内に撤収した仲間たちに、今起きたことの説明をはじめた。


 ○


 その後、誓矢たちは怪物の大群に遭遇することもなく、無事に青楓学院せいふうがくいん基地へと帰還した。

 明治神宮めいじじんぐう調査自体に関してはめぼしい成果を得ることができなかったが、誓矢の報告を元に光こうみ教授が報告書をまとめ上げ、然るべき機関を通して各地へ拡散させた。


「今回の調査については、本来の目的とは異なる成果を得ることになったが、それはそれでよしとしよう。世話になった」


 そう言い残して、光海教授は笠月助手とともに青楓学院を去って行った。

 残された誓矢や光塚みつづかたちは、再び自衛隊管理下のもと、対怪物作戦行動に参加していくことになる──


 そして──


『緊急ニュース速報です、本日、アメリカ合衆国をはじめ、EU諸国、東アジア地域で怪物の発生が確認されました。各国は軍隊を出動させ、怪物への対応をはじめています。また、同時に異能者いのうしゃの発生も各国で確認され、日本での運用を参考に、それぞれの国独自で対怪物作戦を立案する模様です──』


 ついに、日本国外での怪物発生が確認され、日本だけではなく世界全体がパニックに陥っていく。

 連日のように日本だけではなく、海外諸国の状況も報道されるようになった。

 そんな状況下、誓矢の立場も大きく変動していくことになる。


「僕はいったいどうすれば……いったい、何ができるというんだ」


 目に見えて誓矢への待遇が変わった。それは、誓矢という存在に対する価値が高まったということだ。


「だけど、やってることは変わらない……」


 いまや、誓矢への出動要請は海外からも寄せられる状況である。

 結果、誓矢は日本政府の緊急災害対策本部直属扱いになり、光塚、厳原いずはら絹柳きぬやな森宮もりみや風澄ふずみの五人とチームを組んで、世界各地を飛び回っていた。

 しかし、状況は一向に好転しない──誓矢だけではない、異能者や一般の人々も含め全員がなんらかの突破口を欲していた。

 たとえそれが禁断の技術を用いることになったとしても……

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