第42話 「寝てる場合じゃなかったー!!」

「──セイヤはん、セイヤはん」

「──おいコラ、セイヤ、早く気づきやがれ」


 どこからともなくかけられる声に、誓矢せいやはモヤモヤとしたような意識を、ゆっくりとたぐり寄せていく──

 すると、しばらくして視界がパアッと広がる感じがして、目の前に神職の服装を纏った中学生サイズのスズネとヤクモが立っていることに気がついた。


「……あれ、成長してる?」

「違うわ、アホ! これが本来の姿なんだぞ」


 ムキーッと地団駄じだんだを踏んで怒るヤクモを無視して、スズネがそっと誓矢の前に歩み寄る。


「ここは明治神宮めいじじんぐう──神社の中でも一際たくさんの人々の想いが集まる聖域せいいきやから、うちらもこうしてたくさんの力を分けてもろてるんや」

「へぇ、そうなんだ……って、ここはどこ?」

「セイヤはんの夢の中や。今、セイヤはんは力を使いきって眠ってしまってもうたんや」


 誓矢は軽く首を捻る。


「っていうか、夢の中に入ってこれるんだ」

「普段はようせえへんけどな、他人の夢の中に踏み込まれるなんて、イイ気分しないやろ」

「ただ、今回はイロイロ伝えないといけないことがあってだな」


 いつの間にか冷静さを取り戻したヤクモがスズネを押しのけるようにして、前に身を乗り出してくる。


「まず、一個目。あの教授っていうオバハン、イイ目の付け所しているぜ」


 ヤクモ曰く、この明治神宮をはじめとするホットスポットに注目するのは正解とのことだった。

 人々の想いや信仰心が集まる場所には『ゲート』が生成される。


「ゲート?」


 和装のヤクモの口から出てきた横文字に微かに違和感を感じる誓矢。

 隣からスズネがヤクモの説明を補足する。


「ゲートちゅうんは、ここ人間界と、神様たちがおわす神界や、悪魔はんたちの世界である魔界、それに、天使はんの社会が構築されている天界──この三つの世界を繋げる通り道みたいなもんや」

「それ、今、オレが説明しようとしてた内容だろ、横取りすんな」


 ヤクモがスズネを追い払うようにしてから、説明を続けた。


「でもって、ゲートは人々の想いの総量で大きさが決まるんだ。だから、ここみたいなたくさんの人が訪れる神社なんかだと、相当な規模のゲートが発生していて、神界、天界、魔界──まとめて三界って呼ぶけど、その三界からあのオバハン教授が言っている『純粋種じゅんすいしゅ』っていう怪物──こっちでは眷属けんぞくって呼ぶんだけど……ま、いいか」


 面倒くさくなってきたのか髪の毛を搔き回すヤクモ。


「ゲートが大きければ大きいほど、人間界へと同時に送り込める怪物の数は多いんだ。だから、あのオバハン教授が言っている『ホットスポット』が神社やお寺とか教会などなどの『パワースポット』に重なるっていうのは大正解っていうワケよ」


 得意そうに胸を反らすヤクモ。だが、その一方で誓矢はヤクモの横文字発言に対する違和感に気づいていた。イントネーションが微妙に異なるのだ。そのせいで、居心地悪い気分になるのだが、ここでそれを突っ込むととてもとても面倒なことになりそうなので、とりあえず黙っておくことにした。

 そのことに気づいているようなスズネだったが、彼女も何も言わず、不意に姿勢を正して誓矢へと向き直る。


「──で、唐突な話で恐縮どすが、セイヤはんに会いたいと仰ってる方がいらっしゃってるんや」


 そう言うとスズネはピシッと伸ばした背筋からゆっくりと頭を倒してお辞儀をする。

 あわてて、ヤクモもそれに倣って頭を下げた。


「悪ぃ、何も聞かずに本殿ほんでんへ向かってくれないか、頼む!」

「あ、うん、別に構わないけど──って、え?」


 スズネとヤクモの頼みに応えた瞬間、誓矢は自分の足もとの床が急に無くなった感覚に襲われた──そして、自由落下。


「え、ちょ、ちょっと待ってって、ホントに待ってー!!」


 落ちながらパニクる誓矢、そして、それを上から見下ろしながらスズネとヤクモが笑顔で手を振っていた。


「ほなら、また後でなー」

「よろしく頼むぜ、ドタキャンは許さねーからなー……」


 ○


「うわあっ!」


 誓矢は叫び声とともに身体をがばっと起こした。


「……って、アレ?」


 混乱する誓矢の目の前に広がる光景は装甲車そうこうしゃの内部と、心配そうにこちらを見つめてくる自衛隊員の姿だった。

 隊員の一人がおずおずと声をかけてくる。


「あ、あの……大丈夫ですか?」

「あ、はい、大丈夫……って、そうだ! 今の状況はどうなっていますか!」


 慌てて立ち上がる誓矢に、隊員は戸惑いながらも簡潔に説明してくれた──この装甲車を背にする格好で新たに現れた怪物たちに半包囲されている状態であるということを。


「寝てる場合じゃなかったー!!」


 誓矢は急いで上部ハッチへ続くはしごに手をかけ、まだ重さの残る身体を外へと押し上げる。

 上から見る視線の先で、今まさに教授と装甲車を守るような陣形で、光塚みつづかたち五人と笠月かさつき助手が、それぞれの得物を手に怪物と戦闘状態に入っていた。


「みんな、待たせてゴメンナサイ! そして、ありがとう!」


 その言葉とともに、誓矢の双銃そうじゅうから無数の光が放たれた。

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