第40話 「吸血鬼──だって?」
部室棟の奥にあるボクシング部室。一人になった今も、
誰もいない空間で、一人、うつらうつらと居眠りしたりするのが常だったが、今日は違った。
「──さて、少し話につきあってもらおうかな」
誓矢に呼び出されたマスコットサイズのヤクモとスズネは、いつもと違う誓矢の雰囲気に、ゴクリと唾を飲み下す。
「いややわ、セイヤはん、急にあらたまって」
「そ、そうだぞ、セイヤ。なんか雰囲気がマジメというか、ぶっちゃけ怖いとゆーか」
なんとか空気をごまかそうとするヤクモとスズネだったが、誓矢は二人の頭に手を乗せて、ずいっと迫る。
「もしかして、二人ともユーリが普通の人間じゃないって気づいてたのかなー、と、思って」
思い返してみれば、ヤクモやスズネとユーリのやり取りに、いくつか思い当たる節があった気がする。
誓矢が二人の頭を掴む手の力を強めると、
「わかりました、うちらの負けどす……」
「本当にわかったから、とりあえず、この手どかせ、な?」
「……じゃあ、ユーリのこと話してくれる?」
脚を組んで椅子に座る誓矢に見下ろされる格好で、ヤクモとスズネもちょこんと座り込んでから、言葉を選びつつ話し始める。
「ユーリのヤツは確かに人間じゃない」
「せやな、誓矢はんたちにわかりやすう説明するなら『
誓矢は唖然と口を開いてしまう。
「吸血鬼──だって?」
「せや、しかも、とても数が少なく強力な力を持つ『
スズネの説明をヤクモが補足する。
「吸血鬼の純血種は、『
だから、正直怖かったんだぞ──と、今さら怯えてみせるヤクモの頭をスズネが撫でる。
「でも、ユーリはんは悪いお人ではなかったさかいに。いろいろ気遣ってもろうたことも多かったです」
誓矢はスズネの言葉に小さく頷いて見せた。
ユーリは態度や口は悪いけど絶対に悪い人間──いや、吸血鬼ではない。
「絶対、何か理由があるはずなんだ」
今のユーリの行動は本意ではない。何かの理由があって強制的にやらされていることだ──誓矢はそう信じていた。
なら、幼馴染みとして親友として、やることは決まっている。
そう意気込んで立ち上がる誓矢。
そして、その誓矢をやんややんやと拍手で煽る狐神たち。
「これが熱い友情展開ってヤツなんだな!」
「そうどすなぁ、マンガとかよう読まへんうちでもグッとくるものがありますわ」
誓矢は無言で狐神たちの頭に拳を落とす。
○
「怪物発生調査──ですか?」
ある日、突然
「そうだ。正確には調査任務自体は同行する調査官が行うから君が何かする必要は無い」
結局のところ、誓矢がやることはいつもと変わらず、該当エリアの怪物の殲滅だと念を押す司令。
誓矢も命令を拒否できるわけでもなく、また特に疑問もなかったので、あっさりと承諾する。
すると、司令の指示を受けた
「君が
そう言って右手を差し出してきたのは長い黒髪をうなじのあたりでまとめている壮年の女性だった。
縁の無い眼鏡の下にある瞳は知的な光を宿しており、誓矢は少し迫力を感じて握手に応じるのが遅れてしまう。
「──氷狩 誓矢です。よろしくお願いします」
「うん、よろしく。あと、私のことを呼ぶ際には『教授』で頼む。もともとが学者畑なのでな、そう呼んでもらった方が気が楽だ」
「はい、わかりました、教授」
素直なのはよろしい、と、誓矢の背中を叩く教授。自分が肝心の名前を伝えてないことに気がついていない。
コホンと咳払いをして、もう一人の同行者──大学生くらいの青年が誓矢に軽く目で挨拶をした。
「僕は
「あ、はい、氷狩 誓矢です。こちらこそよろしくお願いします」
丁寧に頭を下げる誓矢に、苦笑めいた笑みをみせる笠月。
「そんなに畏まらないでくれ、逆にやりにくくなる」
そう言う笠月は助手兼護衛役という立場で光海教授に付き従っているとのことだった。
「それで、今回の調査任務についてだが──」
説明する気がなさそうな教授に代わって笠月が誓矢にA4用紙5枚ほどの書類を手渡した。
その一枚目──表紙には『ホットスポットにおける怪物発生原因調査』と書かれていた。
書類をめくりながら、誓矢が何気なく呟く。
「ホットスポット──ですか」
「ああ、怪物が出現されると想定されている場所のことだね」
「え!? 怪物って、どこから出てくるのか判明してるんですか!?」
驚く誓矢の姿に学者の血が騒いだのか、満面の笑みを浮かべた教授が誓矢へと向き直る。
笠月が「これは長くなるかな……」と天井を仰いだ。
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