第32話 「ロシエル様の力をいただいた選ばれし存在なのだ」
「
そういって、勢いよく誓矢の背中を叩いたのは
続いて駆け寄ってくる
「それに、氷狩君が助けに来てくれた……ってことは、
見知った二人の姿に安心したのか、誓矢の緊張が一気に解けた。
「うん、光塚君は大丈夫。ちょっと大怪我してるけど、命に別状はないって、安心してイイよ」
「ちょっと大怪我──って、大丈夫なのかどうか微妙だけど、氷狩君が安心してイイっていうならそうするわ。なにはともあれ、氷狩君のおかげで助かったわ、ありがと!」
そこへ、状況の説明をもとめて、他の生徒たちが近づいてくる。
そして、一緒に三階から降りてきた
「氷狩君、厳原くん、敵の動きが変なの」
「そう、なんというか逃げ出しはじめたみたいで」
風澄と森宮の報告に、誓矢と厳原、絹柳は近くの窓から正門方向を見る。
すると、校舎以外の建物の中から抜け出してきた怪物たちが、外へ向かっている様子がわかった。
厳原が誓矢の肩に手を載せた。
「悪い、外へ逃がすとそれはそれで問題になる」
「うん、わかってる──」
ここで怪物を外に出すと、他のところで人を襲う可能性が高いし、それよりもなによりも、正門前には誓矢を送ってきてくれた装甲車と兵士たちがいる。
誓矢はゆっくりと銃を構えた──光の銃弾が宙に弧を描いて飛び、同時に十数体の怪物を光の粉へと返す。
「あらためて見たけど、やっぱりおまえの力はスゴいな、氷狩」
感心したように頷く厳原に苦笑で返す誓矢。
絹柳から説明を受けた生徒たちも誓矢に感謝の眼差しを向けてくる。
誓矢は照れくさそうに視線を落としてしまう。
「とりあえず、これで大丈夫かな。光塚君に頼まれた依頼はこなせたカンジ……?」
しかし、この怪物襲撃事件は、まだ終わっていなかったのだ。
生徒の一人が上階から駆け下りてくる。
「たいへんだっ! 屋上で
その声に戸惑いの視線を交わす生徒たち。
「屋上──って、空を飛ぶ怪物なんていないはず」
「校舎をよじ登ってる怪物もいなかったぞ」
霧郷は避難民たちを安心させるために、他の幹部たちとともに四階に詰めていた。
遠距離攻撃を得意とする生徒たちを指揮して、援護攻撃を行っていたはずなのだが──
「強力な敵って、どういうことだよ! 落ち着いて説明しろっ!」
厳原が駆け下りてきた男子生徒を叱咤する。
その迫力に、いったん言葉を詰まらせる生徒だったが、絹柳のフォローもあり、自分を落ち着かせるようにして口を開いた。
「それが、学校に近づいてきたヘリの中から、キャスターの
嶺山多──誓矢は避難所の巨大モニタで観た報道番組のキャスターが、そういう名前だったことを思い出した。
「最初は救援に来てくれたと思って、霧郷さんが出迎えたんだけど、突然バケモノみたいな姿に変化したと思ったら、霧郷さんに襲いかかってきて、そこから先は、もう何が何だかわからない状態で──」
頭を抱える生徒の横で、誓矢は困惑の視線を厳原たちに向ける。
「とりあえず、屋上に行ってみるしかないだろう」
その厳原の言葉に、絹柳たちも戸惑いつつも賛意を示す。
誓矢は軽く頭を振って思考を切り替えようとした。
「うん、そうだね……とにかく行って状況を確認してみよう」
「霧郷さんが危ないのなら、助けないといけないし」、そう言う誓矢の顔には複雑な表情が浮かんでいた。
だが、助けないといけないという思いに偽りはない。
誓矢たち五人は頷きあって意思を確認すると、階段を駆け上って一気に屋上へと目指す。
勢いよく扉を押し開けた誓矢たちに、低空まで降りてきているヘリから吹き下ろす風が吹き付けてきた。
「いったい、なにが起きてるんだ──!」
誓矢たちは屋上に出てきていた霧郷の取り巻きや一部避難民をかきわけて前へと出る。
すると、その先には傷つき、床にひざまずいてしまっている霧郷の姿と、その前に胸を反らせるように立つスーツ姿の若いテレビキャスター──いや、その男の背中からは禍々しい雰囲気の大きな翼が突き出していた。
「え、怪物……!?」
誓矢の口から困惑の呟きが漏れる。
人型の怪物──その推測が、その場にいる人たち全員の脳裏をよぎる。
そして、テレビキャスターが、その人々の惑いを肯定した。
「そう、我は
キャスターは手にした剣を眼前の霧郷へと振り下ろす。
──ガキィッ!
その剣を自らの光の剣で防ぐ霧郷。
「英雄だかなんだか知らないが、ずっと前からお前のことは目障りだったんだよ」
「……くっ!」
防ぐのが精一杯の霧郷を蹴り飛ばす嶺山多。
「真に選ばれた存在なのは俺なんだよ、偉大な神ロシエル様の力になっ!」
嶺山多は霧郷に剣を突きつけて、頬をつり上げるようにして暗い笑みを浮かべる。
「霧郷──ここで俺がお前を処刑して、真の指導者は誰か、この国、いや世界全体に見せつけてやる!」
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