第33話 「一緒に世界を支配するため協力してもらえないか──」

霧郷きりさと──ここで俺がお前を処刑して、真の指導者は誰か、この国、いや世界全体に見せつけてやる!」


 テレビキャスターの嶺山多みねやまだが勝ち誇った笑みを、膝をついた格好の霧郷へと向けていた。

 霧郷は苦しげながらも、負けじと正面から見返している。


「嶺山多、オマエ、いったい何を──?」

「ふん、その様子だと、なにも知らないようだな」


 嶺山多は嘲るように頬を歪めた。


「少し力のある底辺神の力を宿したくらいで粋がっている程度の存在だったんだな。そのような力、このロシエル様の力の前では赤ん坊同然ということなのに!」


 なにが起きているかわからない誓矢せいやたち。

 生徒の一人が勇気を振り絞って震える声で嶺山多へと問いかける。


「嶺山多──さん、あなたは一体何者なんですか!?」

「うん?」


 嶺山多が頭だけを、屋上に出てきている誓矢たち──生徒の集団へと向けた。


「なんで、そんなことお前たちザコに説明しないといけないんだ──というか、さっきから言ってるだろう。オレはロシエル様の力を宿した最強の指導者だと。オマエたちとは比べものにならない強大な力で、この国を、いや、この世界を支配する偉大な存在だと!」


 そう言って高らかに笑う嶺山多だったが、ふと、周囲の変化に気づいて首をかしげた。


「……うん? それにしても、どうしてお前たちガーディアンどもがここに集まってきているんだ? それに、周りが妙に静かだ。攻め込ませた眷属けんぞくたちはなにをやっているんだ?」


 絹柳きぬやなが声を張り上げた。


「怪物たちならもういないわ!」

「なんだと? 冗談もいい加減にしろ」


 嶺山多の右頬が大きくつり上がる。

 その異様な雰囲気にたじろぐ生徒たちだったが、厳原いずはらが気持ちを奮い起こして一歩前に出る。


「冗談なんかじゃない! 氷狩ひかりのおかげで怪物たちは全滅だ! 嘘だと思うなら周りを見て見ろっ!」

氷狩ひかり君──だと?」


 跪いたままの霧郷が、生徒たちの中にいる誓矢へと驚きの視線を向ける。

 その視線に気づいた嶺山多も誓矢へと向き直った──瞬間、彼の表情が怖れへと一変した。


「ふぇ、ふぇ、フェンリル神だと──うああああっ!?」


 突然、怯えたように叫んだ嶺山多はその場に尻餅をついてしまう。


「フェンリル神だと──!? なぜ、最高神の一柱が人間界に降りてきているんだ!?」


 その言葉に全員の視線が誓矢に集中する。


「あ、えっと……」


 否定も肯定もせず戸惑う誓矢の様子に、生徒たちはなにかを察した。

 そもそも、桁違いな攻撃力で自分たちを圧倒していた怪物たちを一掃してしまったのだ。

 それらの状況も踏まえて、認めるほかなかった──誓矢は特別な存在だと。

 霧郷が悔しそうに俯いた。


「──あの話は本当だったと言うことか。氷狩君が強力なフェンリルの力を持っていたなんて」


 視線を床に落としたまま、霧郷は嶺山多に声をかける。


「なぁ、フェンリルの力って、オマエのその力とどれくらいの差があるんだ」

「差、なんていうレベルの話じゃない! フェンリル神の偉大な力に比べたら、ロシエル様なんて虫けらみたいなモノなんだ」

「同じ神なのに?」

「神の中にもいろいろあるんだよ!」


 皮肉っぽく笑う霧郷に、嶺山多は焦りがまじった声を上げた。


「ていうか、霧郷、オマエらなんか、その神の足もとにも及ばない最底辺の存在なんだからな!」


 そこまで言って、嶺山多は誓矢たちの視線に気づく。


「……これは醜態をさらしてしまったようだ」


 わざとらしく埃を払いながら立ち上がり、嶺山多は引きつりながらも笑みを浮かべてみせた。


「フェンリル神のしろたる君──えっと、差し支えなかったら名前を教えてもらってもイイかな」

「あ、え──氷狩、ですけど」

「そうか、氷狩君か──ひとつ提案があるのだけど、聞いてもらえないかな」


 そう言って右手を差し出してくる嶺山多の真意を測りかねて、誓矢は思わず半歩下がってしまう。


「そんなに警戒しなくてもイイよ。オレのロシエル様の力では、どう足掻あがいても君には勝てない──だから、オレと一緒に世界を支配するため協力してもらえないか。ああ、なんなら、頂点に立つのは氷狩君でイイ。オレは補佐役として務めさせてもらえれば、それで充分さ」

「ええ……」


 困惑の声を上げてしまう誓矢の肩を、安心させようとポンとたたく嶺山多。


「この世界に最高神が降りてくるなんて、まさに奇跡。君はそんな超レアな存在なんだ、その幸運を投げ捨てるなんてお人好しもすぎるだろう?」


 今度はガシッと両肩を掴んでくる嶺山多。

 その迫力に圧されて誓矢や周りの生徒たちは動くことができない。

 ヘリの爆音だけが屋上に響く──その瞬間。


『セイヤはん、危ない!!』

『後ろへ飛べっ』


 突如頭の中に響くスズネとヤクモの警告。

 反射的にセイヤは嶺山多の身体を突き飛ばし、後方の厳原たちのもとへと飛び退いた。

 それとほぼ同時のことだった。


「うがぁあっ!?」


 嶺山多の胸から光の剣の切っ先が突き出していた。


「二人まとめて貫こうとしたんだけど、気づかれてしまったね──」

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