第31話 「グッドラック!」

 誓矢せいやを乗せた装甲車そうこうしゃ幹線道路かんせんどうろ沿いに北上し、青楓学院せいふうがくいんを目指して爆走していた。


「ミスターヒカリ──ファイアー!」


 車内の兵士の指示に、装甲車上部のハッチから上半身を乗り出した誓矢が合図を返す。

 次の瞬間、誓矢が両手に持つ銃から無数の光が放たれた。


 ──シュインシュインシュインシュババババッ!!


 装甲車の進路を阻もうとしていた怪物の一団が、一瞬で蒸発する。


「ヒュウッ!!」


 陽気な口笛と歓声が車内の兵士たちから上がった。

 そのことが誓矢の気持ちもたかぶらせる。

 さすがは本職と言うべきだろうか、キャリー少佐から借りたアメリカ兵の三人は、見事な腕前で障害物やカーブなどおかまいなしに装甲車を爆走させていく。

 誓矢が慣れない英語で礼を伝えると、兵士たちはよりいっそう盛り上がる。


 そして、怪物を蹴散らして爆走を続けた装甲車は、予想よりもとても早く青楓学院の校舎前と辿り着いた。

 怪物たちによってひしゃげられた校門の前に止まった装甲車、そのハッチから誓矢が身を乗り出す。

 青楓学院の敷地内には怪物たちの大軍が侵入を果たし、校舎一階の玄関や窓から、さらに内部へと侵入している。

 そして、校舎に上空から接近してきている報道ヘリ、避難民の誰かを助けようとでもしているのか、危険なほどに高度を下げて、ホバリングしていた。


「これじゃ、本当にギリギリだ──!」


 ──シュインシュインッ、シュシュシュバババババッ!!


 誓矢は装甲車の上に立って、がむしゃらに双銃を撃ち放った。

 校門から前庭、グラウンドなどから校舎に向けて突撃していく怪物たちを端から一掃していく。

 その様子を見ていたのか、校舎の上層階──三、四階の窓から生徒たちの歓声が聞こえてきた。

 誓矢は、装甲車から降りて壊れた校門の間から、敷地内へと入る。


「グッドラック!」


 装甲車の上部ハッチから身を乗り出した兵士の一人が、誓矢に向けて敬礼してみせる。


「あ、えっと……」


 誓矢は言葉に詰まった。感謝の気持ちとこれからのことを伝えたいのに、とっさに自分の頭の中に英文を構築できなかったのだ。

 だが、それを見透かしているのか、兵士は気にするなという風に身振り手振りを交えて笑ってみせる。

 一応、避難所での打ち合わせでは、このあとの行動は兵士たちの判断に任せるとのことだった。

 だが、いったん方向転換をしようと動き出した装甲車は、来た道を戻るのかと思いきや、壊れた校門を背にするように位置して、もし、この先、怪物たちがまだ押し寄せてくるようだったら、兵装を用いて撃退してやる──そんな雰囲気が見て取れた。

 「万が一の時には戻ってこい」、誓矢には兵士がそう言っているようにも思えた。


「ありがとう、ゴメンナサイ──とにかく早く片付けてくるから!」


 誓矢は兵士たちの激励を背に、校舎へと向かって駆け出していく。

 途中、数度、撃ち漏らした怪物たちの気配を感じては、一斉射撃で撃滅していったことで、校舎の手前側の怪物たちの全滅に成功したようだった。


「「氷狩ひかり君っ!」」


 三階の窓から声が上がる。

 風澄ふずみ森宮もりみやだった。二人は上部から誓矢を援護すべく、遠隔攻撃を繰り返しており、途中から誓矢もそのことに気づいていた。


「二人とも、無事で良かった!」

「ううん、こっちこそ助けに来てくれてありがとう!」

「ゴメン、まだ戦況は思わしくないの」


 二人が誓矢に助けを求める。


「校内に怪物たちが侵入しちゃっているの、今、二階の階段にバリケードをつくって持ちこたえているところ!」

「あと、避難民の皆も校舎の三階と四階に全員避難しているわ、でも、階段が突破されたら、もう──」


 誓矢は大きく手を振って二人に応える。


「わかった、今行く!」


 両手に銃を構えたまま、正面玄関から校舎内に突入する誓矢。

 その視線の先にあったのは、ロビーや廊下、階段をびっしりと埋め尽くす怪物たちだった。


「うああああああっっ!」


 反射的に誓矢は連続で撃ち放し、怒濤の勢いで怪物たちを殲滅せんめつしていく。

 誓矢の放つ光の銃弾は直線だけではなく、不規則なカーブをも描いて教室内に身を隠そうとした怪物をも、確実に仕留めていった。

 そして、二階へと駆け上がる誓矢。


「氷狩君っ!」

「氷狩っ!」


 バリケードを守っていたのか、絹柳と厳原が、驚きと歓喜が混ざった声をあげた。

 そんな彼らの前で、もう一度、双銃を構える誓矢。


 ──シュバババババッ、シュインシュインシュインッ、シュウッ!!


 呆然と見守るだけの生徒たちの前で、誓矢は渾身の力を振り絞った。

 中央階段から北と南の両階段までの間、そして、教室の中──

 その全ての怪物に光条が突き刺さって、消滅させる。


「「「うおおおおおっっ!」」」


 バリケードを守る生徒たちから歓声が上がった。

 誓矢は笑顔を作ってみせたあと、何かを思い出したように近くの教室に入る。

 それは、正門とは反対側の教室で、裏庭や第二グラウンドがある裏門方面だった。

 深く深呼吸をしてから、もう何度目かわからない一斉斉射が放たれ、校舎裏側の怪物たちも一掃された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る