第30話 「油断するな、無事に帰って来いよ……」
「まあ、
ユーリがドン、と拳で車体を叩く。
「で、車を動かしてくれる隊員さんはどこにいるんだ?」
その問いに、言葉に詰まる隊長。
「……そ、その、今、志願者を募ってるところで」
「はぁ?」
全然、話にならないと頭を振るユーリだったが、隊長の苦悩もしかたないともいえる。怪物の大軍に襲われている
こんな作戦、無謀としか言い様がない。
ユーリがキレた。
「ああ、もうイイ! オレが操縦してやるよ、基本的なところだけ教えやがれ──」
そう声を荒げて隊長へと食ってかかろうとするユーリ、その金髪の後頭部が音高く叩かれる。
それは、キャリー
「ちょっとは落ち着きなさいよ、アンタ。血の気が有り余ってるんじゃない? 少し食事を控えたほうがいいんじゃないの?」
叩かれた後頭部に手を当てて振り向いたユーリ。その頭を手のひらで押さえつけながら、キャリーは誓矢に対して手を振ってみせた。
「人員なら、うちのチームから三人つけるわよ。彼ら、
「「「ハッ、イエス、マム!!」」」
少佐の後ろにいたダークスーツ姿のアメリカ軍人三人がピッと背筋を伸ばす。
そして、そのうちの一人が誓矢に親指を立ててみせて、ニコッと笑った。
「……とりあえず、これで準備はできたってことか。少し不本意だけど」
なんだかんだで、この金髪の少年は誓矢のために動いてくれていたのだ──口は悪いが。
その二人の視線の前で、隊長とキャリー、それに同行する三人のアメリカ軍人が日本語と英語を交えて打ち合わせを行いはじめた。
その輪に自分も加わろうとする誓矢だったが、キャリーに簡単にあしらわれる。
「この作戦の目的は、あなたを青楓学院に運ぶことなんだから、最強のガーディアン様が口を挟む必要はないの。あなたは怪物を殲滅することだけ考えていなさい」
装甲車と同行するキャリーの部下は、誓矢を学校へ運んだ後は、現場の判断で生還優先の作戦に移行するという。
それだけを伝えて、キャリーは再び作戦会議の輪へと戻る。
「さて、どうする? ここで打ち合わせが終わるのを待つか?」
「うん、すぐにでも出発したいからそれでもいいけど……もう一度だけ、光塚君のところへ戻ってもイイかな──」
そこまで言いかけて、誓矢はふと視線を上げた。
商業施設の壁面に設置された大型モニタに、見たことのある光景が映し出されていたのだ。
「おい、アレって学校じゃねーか!」
「うん、間違いない、
画面に映っていたのは上空を飛ぶヘリからの
誓矢たちでも顔を知っている有名な若手キャスターがヘリの中からレポートしていた。
「今、我々は、あの
画面が切り替わり、正門から次々と入りこんでくる様子と、抵抗しつつも校舎内へと後退していく生徒たちの姿がモニタに映し出された。
キャスターが芝居がかった口調でレポートを続ける。
「皆さんが英雄視している霧郷 深津夜君、今、彼と彼をリーダーとして仰ぐ生徒たちが
「……って、なんだよこれ! シャレにならねーっていうか、なんでこいつらこのタイミングで撮影とかできるんだ。怪物たちの大侵攻を予測してたとでもいうのかよ!」
先に激発したユーリのおかげで、逆に冷静になる誓矢。
「──ユーリ、とにかく僕、行ってくる」
「ああ……悪い」
カアッと頭に血が上ったことを謝るユーリ。
「本当なら報道ヘリなんかが来ている前で、力を解放しろなんて言えないんだけど──」
「うん、わかってる。僕のことより、まずは皆を助けなきゃ、だよね」
そこへキャリー少佐が声をかけてくる。
「氷狩君、すぐに来て。あと少しで装甲車の準備が終わるわ。いつでも出撃できるように車輌に乗っておいて」
「はい、わかりました!」
誓矢はユーリと右拳を打ち合わせてから、装甲車へと駆け出していった。
その背中を見送りながら、ユーリは小さく舌打ちをする。
「チッ──なんだか、イヤな予感がする。セイヤ……油断するな、無事に帰って来いよ……」
その呟きは装甲車が動き出す重い地響きに掻き消されて、誰の耳にも届かなかった。
顔を上げるユーリ、その視線の先のモニタに映し出された映像内では、学校での戦いが引き続き流れている。
外で戦っていた生徒たちが互いに助け合いながら校舎内へと撤退していく。そして、それを校舎の三階や四階の窓から遠距離攻撃で支援する生徒たち。
キャスターの報告によれば、ヘリから見る限り、まだ、生徒に被害者は確認できてないという。
「なにを面白がってるんだ、コイツら──」
モニタの中のキャスターは興奮した様子に見えるが、その中にこの状況を煽るような言葉も交えているように、ユーリには感じたのだった。
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