第25話 「神様の力は変幻自在、臨機応変──」

 ──シュバアッ!


 無数に降り注ぐ光線に身体を貫かれた怪物たちが、断末魔だんまつまを残して光の粒となって消滅していく。

 だが、その中で、ターゲットにしていたはずの怪物が数体、生き残っていることに誓矢せいやは気づいた。


「撃ち漏らした!?」


 一瞬の動揺──だが、誓矢はすぐに自分の気持ちを落ち着けて、残った怪物たちを中心に、さらに広範囲の怪物たちにターゲットを設定し、二射目の光を撃ち放つ。


 ──シュバアッ! シャキィンッ!!


 今度は気づいた。怪物たちのうち、ひとまわり体の大きい個体たちへ向かった光条が、光の盾のようなものに阻まれて四散してしまったことに。


「防がれた──!?」

「落ち着いて!」


 大きく動揺する誓矢の肩を、キャリー少佐しょうさが強く握る。


「大きい怪物たちは、とりあえず放置していいわ。とにかく数を減らしてちょうだい!」

「あ、はい!」


 キャリーの叫びにうなずき返す誓矢。

 大きく深呼吸して気持ちを落ち着けて、三度みたび、射撃準備に入る。

 精神を集中して、基地全体へと意識を集中させて──うごめく怪物たち一匹一匹にターゲットを設定する。

 そして、両手に貯めた力を一気に放出させた。


「──うあああっ!」


 誓矢の絶叫とともに、三回目の光の雨が基地内に降り注ぐ。

 消滅していく怪物、しかし、その一方で、生き残る個体も確実に存在した。

 キャリーが声を張り上げる。


「気にしない! とにかく、撃ちまくって!」

「わかりました──いけぇぇぇぇっ!!」


 ──シュバアッ、シュバアッ、シュウバァアッ!!


 斉射三連せいしゃさんれん、誓矢がヘリから打ち下ろした光の雨で、基地とその周辺にうごめく怪物たちのうち、小柄な個体は全て消滅した。


「でも、大きいヤツらが、まだ残って──」


 誓矢が焦りの声を上げる横で、下の様子をのぞき見るキャリー。

 生き残った大物の怪物たちは基地内への侵入を続け、車両や建物を破壊し、迎撃しようとする兵士たちへと襲いかかっていく。


「距離が遠いから威力が落ちているのかも、もっと距離を詰めれば……」

「それは難しい話ね、今の状況でヘリを着陸させるのは厳しいわ」

「じゃあ、いったいどうすれば──」


 このままだと生き残った怪物たちに襲われた兵士たちが怪物化し、それを誓矢が消滅させるという負のスパイラルに陥りかねない。かといって、効果的な対処方法も思いつかない。

 頭の中が真っ白になってしまう誓矢──そこに、聞き覚えのある声が響いてきた。


「神様の力は変幻自在へんげんじざい臨機応変りんきおうへん──」

「一本の矢が折れるっていうなら、複数の矢をまとめればイイだけの話だろ!」

「スズネにヤクモ──!?」


 ハッと顔を上げる誓矢、その脳裏に脳内の奥底から一部の情報が展開される。


「そっか、そういうことか!」


 突然一人で声を上げる誓矢を、驚きの表情で見守るキャリーたち。

 そんな彼女たちの視線をよそに、誓矢は両手に銃を出現させる。

 そして、その光り輝く銃同士を勢いよく打ち合わせた。


「片手でダメなら、両手の力をあわせれば!」


 打ち合わされた銃が合体し、一際眩く光ったかと思うと、次の瞬間、長大な銃身を持つライフルタイプの銃へと姿を変える。


「これは──!?」


 さすがに絶句するキャリー。

 誓矢は自分の身体が変わらず固定されていることを確認して、全神経をライフル銃へと集中させる。

 脳裏に展開される怪物たちの気配──特に力の強そうな大きな個体を狙い、マーキングしていく。


「五体が限度か……」


 誓矢は小さく呟く。だが、今は迷っている暇はなかった。


「これで、どうだぁぁぁっ!!」


 ──シュインシュインシュイン……シュバアッ!


 ライフル銃に集中したセイヤの力が、引き金を引くと同時に五本の光条に分裂して、地上にいる怪物たちへと迫っていく。


 ──バリィンンッ!!


 音を立てて怪物が展開した光の盾を粉砕し、突き刺さる光の槍。

 一際大きな悲鳴を上げて、五体の怪物が消滅した。


「やった!」

「やったのね!?」


 誓矢の歓声、状況を察したキャリーも喜びの声をあげる。


「はい、あとはとにかく撃ちまくります!!」


 青白い光を放つライフル銃を抱えた誓矢は、再度、地上の大型怪物に狙いを定め、次々と撃ち滅ぼしていった。


「それにしても、大したものね……調査報告以上の傑物じゃない」


 一心不乱いっしんふらんに銃を撃ち続ける誓矢と、エールを送り続ける機内の兵士たちの姿を眺めながら、キャリーは一仕事終えたと言わんばかりに、座席に深く腰を下ろした。


「この子──氷狩ひかり 誓矢せいや。このあとどう扱うか……」


 とりあえず、日本政府との協定もあり、誓矢の協力を仰ぐのは今回限りということになっている。だが、これだけの力を持つ存在、野に放つのはいろいろと問題があるように思われる。

 さらに日本政府に抱え込まれたとしてもやっかいだ。現状のパワーバランスが大きく乱れ、不測の事態を招きかねない。


「あの金髪の坊やのこともあるし、少し面倒なことになるかもしれないわね……」


 その少佐の呟きは機内を吹き荒れる強風に吹き飛ばされて、誰の耳にも届かなかった。

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