夏はつとめて最高

 ガタンガタンと、朝の静寂を電車が走る。少し雲が張った朝の薄暗い空はこの街に蓋をしているようで、傍迷惑な電車の音はよく響く。

 山の車道の端に止めた車に腰をかけ、それを眺めて感傷に浸る俺を邪魔するように、隣のこいつは空気を読まずにカップ麺をすすっていた。

「あったけぇ、この時間に味噌ラーメンは美味い」

 汁をジーパンへ飛ばしながら、豪快にすする。

「汚ねえ。こっちまで飛ばすなよ」と俺は缶コーヒーを傾けた。

 早朝に突然家まで押しかけてきたかと思えば理由も語らず車を走らせ、一時間の後に今現在。なにがしたいのかわからないが、ここまでこちらを振り回しておいて訳を話さないということは、話を聞いてほしいわけではないのだろう。

「夏にラーメンとかさ、暑すぎてこの時間くらいにしか食えねえよな」

「山の中で風も涼しいしな」

 俺が適当に同意すると、こいつは何がツボに入ったのか、ケラケラと笑う。笑いが収まったかと思えば狂ったようにカップ麺に集中し、瞬く間に汁まで飲み干した。噴き出した汗をシャツで拭っている。シャツに滲んだそれに対し、汚いと嫌悪感を抱くと同時に、どうにもエネルギーの象徴のようにも感じた。

 空のカップ麺をビニール袋にしまうと、そいつはボンネットから飛び降り、ガードレールへと近づいていく。

「気をつけろよ」と俺が声をかけるも、遠慮なしにガードレールに腰をかけた。そのすぐ外は崖になっているのは承知の上だろうが、それを見ている俺の心臓には悪い。

 少し街を眺めて、「十年後に何してると思う?」と突然投げかけてきた。

「知るか」と適当に返す。

「じゃあさ、結婚は?してると思う?」

「知るか」

「じゃあ趣味とかは?」

「知るか」

 あいつはガードレールから離れ、再びボンネットに腰かける。

「じゃあ、生きてると思う?」

「知るか」

 ぶっきらぼうにそう返して、缶コーヒーを飲むと、こいつはなぜかケラケラと笑い出した。

「もし俺が死んでも、葬式来んなよ。恥ずかしいから」

「うるせえ。俄然行くね」

 俺がそういうと、こいつは腹を抱えて大笑いする。そして涙が出るほど引き笑いして、ようやく落ち着くと、「そろそろ帰るか」と零した。

「俺、今日仕事なんだけど」

「知るか」

「最悪だな、こいつ」

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