バスはまだ来ない
喉を通る冷たい感触は、焼石に水をかけるように私を芯から冷やしてくれる。誰もいないのをいいことにズズズと音をたてて、一息にゼリー飲料は綺麗なぺったんこになった。まるで存在意義のないうっすーいビニール屋根が熱を籠らせ、即座に私の体を火照らせる。漁港を通り過ぎて来る風は肌を焼くようで、安くてボロいベンチは鉄板になりきっている。
まだ、バスは来ない。
たかが学校に行くためになぜこのような地獄を乗り越えなければならないのか。学校につきさえすれば音楽室のエアコンが私を救ってくれるが、そこに辿り着くまでが長いのだ。何度スマホを見ても、1秒ずつしか時間は進んでくれない。早く家を出すぎたなと後悔する。しかし、万が一にもバスを逃せばバス停から学校まで走る必要がある。私は運動部のように夏のランニングに耐えうる肉体性能をしていないのだ。
……まだ、バスは来ない。
そういえば明日は部活が休みだ。もうすぐ夏休みだし、それに備えて買い物とか行こうかな。いや、確かお母さんが明日は暑くなるって言ってたっけ。これ以上暑くなられたら買い物どころじゃない。駅に行くだけで疲れてしまいそうだ。泳ぎにでも行きたいが、それほど暑かったら日焼け止めを超えて焼かれてしまうかもしれない。それだけは避けたい。これでも気になる男の子がいる身。日焼けしてかわいくいられるのはオシャレ上級者だけだ。私はそうじゃない。
…………まだ、バスは来ない。
暑さに耐えきれず、目を瞑る。眼球が暑く感じるなんてどんだけだよ。そう文句を垂れながら目を瞑る。すると、今度は耳をつんざく蝉の大合唱が気になり始める。去年の私のクラスの合唱祭よりも揃っている。ミーンミーンミーンと声に出してみた。私も自然のひとつになったような気になってくる。
ミーンミーンミーン、チリン。
チリン?チリンとは声を出してない。というか蝉でもないような。私が目を開けると、眉を顰めた私の気になる男の子が自転車に乗って前を横切っていた。聞かれた!!七日も経たず私の蝉は恥ずか死んだ。
…………バス、早く来ないかな。
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