海の銛人
「だりぃー」とつい言葉が漏れる。
それに呼応するように、派手に動き回っても外れない特製のイヤホンから『コラ!』と鈴のような声が聞こえてくる。
『キョーコちゃん!そんな言葉遣いしちゃダメっていってるでしょ!』
うるせぇなぁ、と今度は心の中でだけ悪態をつく。当然、イヤホンの向こうのやつは無視だ。
そんないつものやりとりに、向こうは慣れた様子で仕事を促してくる。
『とりあえず狩り終わったそのメガロドンさんは置いておいて。勝手に鳥さんたちが処理してくれるから。キョーコちゃんは漁船に戻って警戒を続けてちょうだい』
「はいはい」
そういって私は、いくつか海に浮かんでいる血だらけのメガロドンをぴょんぴょんと跳ねて、漁船に戻る。
漁船を襲いに水面にまで上がってくるサメたちを排除するお仕事。一般の人たちには大きな脅威らしいが、私にとっては簡単な仕事だ。ひと昔にはこんな仕事はなかったらしいが、加速度的に進んでいった海面上昇によって地球の表面の9割が水によって覆われたこの世界では、かつて絶滅したといわれていた最大級の捕食者魚類であるメガロドンがどこからともなく現れ、瞬く間に海の覇者、そして地球の覇者となった。そんな世界では、当然人間の主食は作物や肉から魚介へと大きく転換し、それを護衛する仕事が求められた。
その仕事ができる人間はそう多くない。私のように環境に適応した身体能力を持つ若い世代だけが務めることができる。故に、私は今日も学校帰りにサメを狩る。時折制服のまま出かけては返り血でダメにしているが、そんなものいくらでも買い替えるだけのお金がある。
『キョーコちゃん、レーダーにサメの反応あり。水面に近づくまで残り120秒だよ』
適当に返事をして、私は専用の銛と銃を持ち、水面を睨みつける。
『残り十——五——三、二、一、今!』
私は船を大きく飛び出し、水面に銛を突き付ける。肉を抉る感触が腕に伝わる。
私は今日もスカートをはためかせてサメを狩る。
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