今、彼女と一緒にいることができることに、私は最大限の感謝を示したい。

 彼女のことを親友だと評する私を見たら、きっと一か月前の私は驚き、「嘘だ!」と叫ぶだろう。それほどに初対面の印象は最悪だった。私にも非はあるだろうが、それでもそんな出会いになったのは向こうの責任だ。それだけは譲る気はない。

 私のクラスに転校してきた彼女は最初の挨拶で名前しか教えないという暴挙に出た。そして学級委員長として面倒を見ようとした私に「必要ない」「迷惑」「邪魔」と友愛の欠片もない言葉を投げかけた。いじられることはあれどそこに愛情を示す人物にしか出会ったことがない私にとってそのように素気無くあしらわれるのは初めての経験だった。ムキになった私が無理やり面倒を見ようとして口論。最悪の出会いだった。

 事の発端は、彼女の制服がまだ用意されていなかったことだった。私の家が制服を卸していることから残念なことに私と彼女は同じ道を歩いていた。そこに突如降りかかる弾丸の雨。その発射源であるリュウグウノツカイのような姿をしたロボット。機械の羽を生やし刀を振るう彼女。

 多すぎる専門用語を省けば、ロボットたちはエイリアンの兵器で、彼女は地球を守るヒーローだった。コミックかゲームのような話だ。気づかれぬうちに地球を乗っ取りたいエイリアンと世間を騒がせずに事態を収拾したいヒーローの幸運なる利害の一致により、互いに一般人には姿を視認されない技術を使って争っていたらしい。そして不運にもそれが唯一効かなかった一般人の私。そうして私は世界を守る争いに巻き込まれてしまった。

 それからは本当に色々なことがあった。戦わされそうになったり、私には戦う適性がないことが判明したり、戦えないうえにこの戦争を知っている厄介者として消されそうになったり。私は今の自分の生が数多くの薄氷を積み重ねた上にあることに冷や汗を流さずにはいられない。

 そんな“色々”の中で、彼女と口論を交えた回数はもはや数えることはできない。その中でもっとも激しい口論をしたのは――いや、あれはもはや殴り合いにまで発展していた――下っ端の意見を封殺し暴走を始めたエイリアンの親玉を倒すために、彼女が自分を犠牲にすると決めた時だった。

 テクノロジーの全てを詰め込んだ爆弾。しかし威力を最大限まで高めるために、発射機構を取り付けることができず、誰かが敵の懐まで入り込み自爆する必要があった。当然懐まで入り込める実力が求めらる。確かに適任は彼女しかいなかった。もはや猶予はなく、その手段しか解決方法はなかった。

 彼女は命を賭してその作戦を成功させた。作戦に出発した後に彼女を始めてみたのはボロボロになり、全身隈なく焼けている姿だった。

 ところで、彼女はぶっきらぼうで言葉が少なく、敵には容赦のない人種だった。しかし、そんな彼女にも良いところが一つだけあった。敵を「エイリアン」で括らないところだった。エイリアンたちにも個性がある。戦いを嫌い、放棄した者を誰にも言わずに保護していた。

 だからだろう。彼女の命の灯が消えかかった時、彼女の仲間も彼女が助けたエイリアンたちも、その場にいたすべてがあらゆる技術と奇跡を用いて彼女の命を繋ごうとした。

 そうして戦は終わった。今もまだ宇宙の脅威から地球を守る戦いは続いているらしい。しかしそれは散発的なもので、戦争と呼べる規模にはならないという見通しだ。

 だから彼女は、今も悠々と私と学校へと向かっている。傷跡はすっかり消え、端正な顔立ちの癖にぼうっと空を眺めている。時間を確認して私が急かすように言うと、彼女はぶっきらぼうにそれを了承した。並んで歩く彼女は「今日の購買、焼きそばパンあるかな」と呑気に語っている。そんな普通の友達のような会話をして、何もない空の下を私たちは歩く。

 隣を覗き見れば相も変わらず何を考えているのかわからない顔をしている。

「なに?」

「ううん。アホっぽいなぁと思ってみてた」

「は?そっちはバカっぽいじゃん」

「はぁ!?口開けてポカンとしてる人に言われたくないんだけど!」

「うるさ」

 耳を塞いで逃げるように走り始める彼女を、私は追いかける。

 こんなやつでも、彼女は私の親友だ。

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