友達の案内でやってきたその町は

 友達の案内でやってきたその町は、まるで時代から取り残されたようだった。かつて炭鉱夫とその家族が暮らす町として賑わっていたが、今から四十年前に地盤沈下の影響で一階がまるまる水没し、現在は水没都市の上に作られた家々が新たな町を形成しているのだと、彼女は説明してくれた。ベルトコンベアを支える柱だけが中の鉄柱をむき出しにしながらも今も並んでおり、なるほど確かに炭鉱の後が垣間見える。

 彼女は水上を繋ぐ木造の道路を歩いていく。私には精々ぼろい桟橋程度にしか見えず、踏みしめたら底が抜けたりしないか不安になる。

 いざ街中に入ると、そこは現代人たる私にとってはもはや異世界だった。壁の表面は板材で作られ、その向こうから生活音が聞こえてくる。曇りガラスからは橙色の明かりが漏れだし、軒下には電球がむき出しのまま道を照らしている。

 自分の着ているブレザーも、流行りのリュックも、お気に入りのスニーカーも、この場所では自分のなにもかもが違和感だった。

 私は思わず言った。

「なんか教科書に載ってる大正、昭和とかの町みたいだね」

 彼女はくすくすと笑う。

「あんまり好きじゃない?こういうところ」

「え、いや、そうでもないよ?」

 こめかみを汗が一滴流れた。いつもより灯に集るハエの音がうるさく感じる。

——そういえばなんで、ここに来たんだっけ?

 そんな疑問が頭を過る。クラスメイトの家に遊びに来たにしては、もうすぐ日が遅い。私の母は夜間の外出に厳しいから、私はいつも夕飯には家に帰っているのに。

「ねえ、あそこがうちだよ」

 彼女が少し離れた家を指さす。二本の大きな煙突が聳えており、その先から黒煙を吐き出している。

「銭湯やってるんだ。入ってく?」

 私はとっさに首を横に振った。そんなゆっくりしていたら帰る時間が遅くなってしまう。そう私は彼女に伝えた。

「ええ~、入っていったほうがいいよ。人が一日にかく汗って結構な量だよ?ちゃんと清潔にしないと」

 そういわれると、塩っぽい臭いが鼻に届いた気がした。遠回しに、汗臭いって言われてる?自分のブレザーの臭いをかぐ。確かに汗臭いかもしれない。私は彼女の言葉に甘えることにした。

「うん。そうしたほうがいいよ。あ、うち料理も提供しててね。よかったら食べてって。自慢の料理長がいるから」

 せっかくならそこまでお世話になって家に帰ろう。母は少し怒るかもしれないが、一日くらいいいだろう。私が頷くと彼女は嬉しそうに笑った。

「大丈夫。ちゃ~んと美味しくするからね」

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