影もたまには黄色に染まる。

 東京から車で四時間。連なる山々と並ぶように、縦に長い畑と共にあるのが私の家だ。隣の家は畑のはるか彼方に覗き見え、こんびになどという言葉は縁遠い。そうなれば当然学校も遠くの場所となり、遅刻厳禁なバスを小中高と利用していた。

 そんな生活も早いもので既に25年の歳月が過ぎている。一人娘として両親の仕事を手伝う毎日だ。化粧を落とすことよりも土を落とすことのほうが圧倒的に多いだろう。

 ローファーがコツンと、いつ舗装されたかわからないコンクリートと音を鳴らす。

 紺のスカートと、白のブラウス。私にできる最大限のおしゃれだ。彼と会う時、三回に一回はこの服を着ているだろう。農家の三男だった彼は、必死の勉強とバイトによって東京の大学へ進み、今はもう立派なサラリーマンの仲間入りをしている。残業したいと思うほど強いやりがいがあるようで、けれど上司から働きすぎるなと苦笑されていると、嬉しそうに話すのを今日聞いた。それなりの給料を貰っているようで、会うたび会うたび、彼が現代人として完成されていくのを感じる。

 ふと、足を止めた。畑と道を隔てる用水路が、私を歪ませて映す。なんのためにつけられたのかわからない短いガードレールが、私がそれ以上身を乗り出すのを阻止する。

 自分の顔を見る。服を見る。目を見る。

 ふわっと、風がスカートを膨らませた。遠くの川でサギが飛び立った。かかしがぐらぐらと揺れた。夜の帳から逃げる太陽が稲穂を照らした。稲穂に反射する光が世界を黄色に染めた。

 私は前を向いた。太陽が沈む速度で歩き始める。

 いつか私は彼に振られるなと、確信にも近い何かが私の心底で芽を出した。

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