橙色は青に染まる
ゴウッと強い風が吹いた。空は群青に染まり、それに追い立てられた太陽が苦し紛れに雲を橙色に照らす。私と彼女は幅広な電灯の上で、太陽から吹かれてくる風を顔面に受けていた。
「ウハハハッ!」と女子高生にあるまじき笑い声を彼女はあげる。セーラー服は風に吹かれバタバタと音を鳴らす。きっと下から見たら下着が丸見えになっていることだろう。足元を歩く人がいないとはいえ、そんなのはごめんな私は大人しく電灯に腰を掛ける。
なぜか今日は人が街にいない。ビル群に灯る労働の象徴のほとんどは姿を消し、車道を野良犬が我が物顔で歩き、歩道には小鳥がたむろしている。人のいるべき場所に人がいないというだけで、どうにもノスタルジックな気持ちになる。
また、強い風が吹いた。なぜ彼女はこれを受けて電灯の上に立っていられるのだろうか。座っている私ですら両手で電灯を握っていないとひっくり返ってしまいそうになるというのに。
「あ、見て見てアレ!」
彼女がそういって十字路を指差す。そこには待ち人来たらずな車両用信号機が律儀に働いており、車の代わりに野良犬たちがルールを守っていた。
「人間でもルール破る人いるのに、偉いね」
私がそういうと、彼女は不服そうに声を上げる。
「なんでそういう捻くれた感想しか出ないのー!そこは『かわいい~!』でいいの!」
——かわいいものか。人間が決めたルールに付き合わされた犬が人間のルールに縛られてしまっただけじゃないか。
そんなことを言えば、彼女はまた不服を示してくることだろう。私は口を閉じることができる女なのだ。
視線を風の吹く方に戻せば、太陽はもう遠くの低いビルの陰に隠れていた。そろそろ日が暮れる。
「そろそろ日が暮れるね」
同じことを考えたことが気に障り、私は彼女を睨んでしまう。
「え、なんでそんな目で見られてるの?」
「……なんでもない」
私は電灯を降りる。小学生が木を登るようにするすると歩道に降りる。
「あ、待ってよ!」
彼女も私を追って電灯を降りる。電灯の上では風を受けてもバランスを保っていたくせに、降りるのは私より下手だ。ぷるぷると震える腕でちょっとずつ降りる彼女を私は何も言わず見上げる。
真っ青なエロパンツを、彼女は穿いていた。
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