わたしたちの
ぶらりと、コンビニのロゴが入ったビニール袋を持って商店街を歩く。足元は小さなベージュのレンガが敷き詰められている。左右には錆を隠せない看板が奥行を感じさせながらも、どれ一つとってもシャッターが開かれているものはない。商店街を覆う天窓が夏の日差しを滞りなくわたしにぶち当てる。
「あっづい」
濁音交じりの独り言が汗と共に流れ落ちる。ビニール袋を持つ左手にかすかに届くアイスキャンディの冷気も、世界を漂う湿った熱気には敵わない。
ふらふらと歩きながらも、わたしは商店街の十字路にたどり着く。鳩が六羽、ばさっと飛び立った。その向こうにわたしたちの小学校が見える。長期休みの今、小学校は虫の騒めきに囲まれながらも沈黙を保っている。どうやら今日はサッカーも野球もやっていないようだ。
口笛を吹く。校歌のサビの一小節。続きは吹かれない。どうやら近くに同校の生徒はいないようだ。生徒の間で伝わっているこの小学校だけの特殊な伝統。卒業生だという教育実習生の大学生は「仲間がいるだけで気持ちが落ち着くからね」と懐かしそうに語っていた。
足首に水が跳ねた。どうやらアイスの冷気で結露した水が、ビニール袋を辿って落下したらしい。親指と中指で挟むと、アイスは少し柔らかくなっていた。
「やべっ」
わたしは走る。家まであと三分だ。
わたしの後ろで蝉がジッと鳴き終えた。
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