風と風に挟まれて
海に面した急勾配な山の斜面に作られたぼくらの町は、日本で最も標高差のある町として知られている。山の麓にある最低標高には、木造建築の舟屋やアパートが並んでおり、中層にはマンション、スーパー、学校が聳え、高層には一軒家と公共施設が落ち着いている。そして町の象徴であり山の頂点には大きな三ツ鳥居が見える。住民の主な交通手段は自動車でも電車でもなく、年若い市長が全力で公設したロープウェイだ。インターネット社会の現在、この特徴的な風景はテレビやSNSで話題を呼び、不便な坂道に人が寄り付かなかった親の世代に比べると訪れる人の数が爆発的に増えたらしい。
そんな町を、ぼくは海辺から見上げている。海と並行して伸びる山に寄り掛かる町は、横に遠く伸び、町が消えてもまだ緑は広がり続けている。高い高い壁のようなそれは、可能性に蓋をする閉塞感も地に足をつける安心感もぼくに与えてくれる。鍋蓋のつまみのように山頂にくっついた三ツ鳥居が疎ましくも愛しくも思える。
「早く行こうよー!」
ぼくを呼ぶ友達の声がする。ガムテープで無様に補強された浮き輪をもって、ぼくに手招きをしている。
ぼくは友達を待たせると、三ツ鳥居にお辞儀をした。
鳥居はあくまで入り口で、ここからはその奥にある神社は見えない。だからそのお辞儀に意味なんてない。けれど無性に衝動的に非常識に敬意を表したくなったのだ。鳥居の奥には海神を祀る神社がある。「山の上なのに海神?」と疑問を持ったこともあるが、海を見渡す位置にあるから良いらしいのだ。
「ねぇ、まだ~?」
ぼくを呼ぶ友達の声がする。少しサイズの小さい去年の水着を着て、ぼくに手招きをしている。
ぼくはサンダルをぺたぺた鳴らして、友達の元へ小走りした。
鳥居の向こうで、雲が高く積みあがっていた。
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