金魚と、海

 サンダルの大袈裟な隙間を通って水が足に清涼感を与える。膝小僧を隠す程度のショートパンツに籠った柔らかい熱気との温度差が余計に快く感じさせてくれる。

 家の前、長い坂道の下に見える港町を眺めながら大きく身体を伸ばす。私はこの家が好きだ。家を出てすぐに見えるこの景色が好きだ。遮るものなく空からめいっぱい降り注ぐ夏の光が、海に反射して丘の上の私にまでキラキラを届けてくれる。私は単純なもので、光るものならなんでも好きなのだ。夜空に浮かぶ星、森で生きる蛍、そこらに転がる綺麗な石。私はそういったものを写真に収めることを趣味にしている。だから、私にいつでもキラキラを与えてくれるこの家からの景色は何度見ても飽きない。

 そうして揺蕩う海の反射を眺めていると、家の中から「もう終わったの~?」と母の声が聞こえてくる。


——そうだった。水槽の掃除をしないと。


 私はずっと足に水をかけていたホースを水槽に突っ込む。隣に置かれた青と白のバケツには金魚とタニシが緊急避難していて、見知らぬ場所に不安そうにしていた。

 久しぶりに掃除する水槽の表面はタニシでも落とせない根強い苔が引っ付いていて、私はごわごわのタワシで対抗する。ある程度落としたら水槽の水を流す。水は坂道の両端にある細い溝を通って海へと向かっていく。それを眺めながら、再び水槽に水を溜める。

 ホースを止め、水槽の底に石を並べ、バケツから金魚たちを帰してやって、掃除は終了だ。帰ってきた我が家に金魚たちは右へ左へ走り回る。しゃがんでの作業に腰が石のようになっていた。それを解すように大きく伸びをして、眼下の港町を眺める。水流は今も町へと流れ込んでいっている。水槽の水も、海と繋がっている。


——金魚も、キラキラ綺麗だな。


 金魚が一匹、海を眺めてヒレをなびかせていた。

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