誰も知らない、おおきな岩

 その岩のことを、誰も知らない。

 その大きな岩は、東京の千代田区にある二つのビルの間に置かれている。西のビルには喫茶店や書店、楽器屋が入っており、東のビルには小さなIT会社が入っている。初めてそのビルに入っていく人は、ビルの二階の窓にまで覆いかぶさる岩の陰にいつも驚く。しかし、誰もその岩のことを知らない。

 大きな岩には、しめ縄がされていて、正面には札が貼られている。札には昔の字が書かれていて、それが神聖なようにも不気味なようにも見えた。岩の前には黒い塗装が剥げた十字の木が刺さっていて、正面から少し右へずれている。私は、それが鳥居だったものではないかと推測している。

 近くの図書館でその岩について調べてみたが、大きな岩に関する言及はなかった。岩の傍にも看板や石碑といったものは置かれておらず、どこにも記録が存在していない。一度、テレビで千代田区の七不思議調査の番組を見かけたことがあった。しかし、大きな岩は紹介されなかった。

 なぜここにあるのか、いつからここにあるのか。誰も知らない大岩を、私だけが求めている。

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