苔むす瓦は涙を流す

 身長5mほどの山門が、私を見下ろす。

 大きなその巨体に見合わず森の中にひっそりと佇むそれは、植物に覆われながらも元気そうだった。山門からのびる階段はその先を地面に隠し、地面は草花に隠れていた。反対を振り返れば、大きな扉越しに森がある。

 この山門は何の入り口なのだろうか。森の入り口なのだろうか。

 迎い入れる者もなく、守る物もなくなったこの山門は、何のために生きているのだろうか。

 ぴちょん、と雫が肩に落ちた。真っ白な装束に鼠色の楕円ができる。上を向けば、覆い被さる枝葉を背景に瓦が見えた。墨汁を薄く広げたように漆黒から少しずれた色。その表面には緑のもさもさがしがみつくように茂っていた。

 柱は真っすぐ立っている。瓦は欠けることなく並んでいる。元気そうな山門だ。私が 去っても、きっとこの先もここに佇んでいるのだろう。

 私は腰を上げる。階段には私のお尻の影ができていた。土を簡単に払い、私は階段をステップを踏んで降りていく。

「ばいばい、またね」

 山門の返答はない。

 ただ一滴、ぴちょんとなった。

 そういえば最近、雨、降ってないな。

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