わーらう、わらう。あしたもわらう。
ブゥーンと、モーターの音が下から聞こえる。私の足元を通るボートには雨具屋が乗っていて、軒にはてるてる坊主がぷらぷらと踊っている。スマホのカメラを向ければ、船頭のおじちゃんがほにゃっと笑ってくれた。
その時、私の足場が揺れた。直径20cmほどの正方形の足場は川底から伸びてきている工場の一部だ。川沿いにある工場は何を作っているのか誰も知る人はおらず、私たちはナニモ工場と呼んでいる。そしてこの足場は、工場から伸びてきているが、排熱ボイラーでもなく、これが何の仕事をしているか誰も知らないナニモの棒だ。ただ時折、揺れる。意味もなく揺れる。その振動は私の体内を通じて全身をくすぐり、私からは笑い声が零れてしまう。
私はジャンプして、川沿いの民家の屋根に渡る。表面が緑色に錆びた瓦は脆く、ズルっと外れそうになったのを足裏で感じた。屋根に腰かけると、川の反対にある団地の窓で煙草を吹かす眼鏡の男性と目が合った。
「おはよう、いい天気だね」
「おはよう、いい天気だね」
私と彼は同じ言葉を言い合った。空は真っ白な雲が大きく広がっている。何を宣伝したいのか「永劫」と大きく描かれた看板も、うすぼんやりと霞んでいる。
川は臭い。緑と茶が混じった色からは、酸素を奪う臭気が漂う。煙草の彼の眼鏡には、稲妻のようなヒビがある。私は屋根からジャンプして、道路に飛び出す。
「あーした、天気になーれ」
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