Happy Summer in 2月

 全身に寒さが突き刺さる。一部だけを隠す能力しか持たない水着にもはや意味などなく、身体の芯まで冷え切っているのがわかる。

「なんでこんなこと提案したんだろう……」

「いや今更かい!着替える前に気づけや!」

 左手に立つ凍った鼻水を垂らす渉と、右手に立つちゃっかりラッシュガードを着ている纏。この極寒の中ラッシュガードが役に立っているのかはわからないが。到底自分では抑えられない全身の震えが限界を超え、キツツキよりも早い気がする。

「やばい、佐伯の顔が青くなってきてる!」

「とっととやることやって退散しよ!もう持たんわ俺も」

 なんとなく意識が遠のいてきた気がする。二人の声も心なしか水面越しのような。

「生きろ佐伯!まだ親孝行してないだろ!するまで死ねないって言ってただろ!」

「佐伯でものボケしとる暇あったらはよしろや、ホントに佐伯死んでまうぞ」

 身体が後ろに引っ張られる。どうやら二人は覚悟を決めたようだった。

「俺にバレンタインチョコくれんかった女子たち恨むぞ!」

「いや貰えなかったら寒中水泳する言い出したんお前」

「3、2、1――」

 纏の声を無視した渉の掛け声で、二人は走り出す。そして、俺の身体も二人と一緒に前を進む。水面まで高さ1m。小さな土台で足を踏み込み――。

「せーの!」

 熱を出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る