梨色街の白煙

 チュンチュンと小鳥がさえずり、キーキーと鼬が鳴く。その声は隣に座っている僕には明確に聞こえるけども、少し気を抜くと、至る所から聞こえてくるグオングオンという機械の鳴き声に埋もれてしまいそうだ。

 元々ジャンク品のごみ溜めでしかなかったこの街は、天才ニック・コーキックの発明である「タン力」なるもので急速な発展を遂げた。タン力に掛かれば、どれほど錆びれて噛み合わせが悪くなった歯車でも、たちまち一秒間に千回転してしまう。ジャンク品で家を建て、ジャンク品で家具を作っていたこの街は、街全体が大きな工場に変貌してしまったのだ。そして、この街で暮らしていた貧民たちは「ジャンク品は俺のものだ」といわんばかりに、家に運び、狭い家はすぐに満腹になった。しかし、人生最大のチャンスを味がなくなるまで噛み尽くしたい貧民たちは、ジャンク品を屋根に乗せ始めた。そして、街は上へ上へと積み重なり、世界でも有数の高地住宅が完成した。

 街を包むのは工場の煙だけではなく、街を駆け抜ける低い雲の割合が大きい。雨水を直に受け続けた影響か、街を構成する要素の九割である金属は苔を身にまとっており、光沢も失って梨色となってしまっている。

 腰のポーチから水筒を取り出す。ガラスで作られた水筒には、翡翠色の水が入っている。タン力で浄水すると、なぜかこうなるのだ。それを僕はありがたがって飲んでいる。一口、二口、喉に通す。すると、目がよくなる。頭が回る。体の調子が良くなる。ウィンと僕の足首が鳴った。今日は、右腕が見つかるといいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る