のぼりざか
身を包む真新しいブレザーに春風が濯がれる。その風に感傷も期待も感じられない。
何も知らない組織に入るというのは、向日葵にとってそこまで心動かされる事柄ではなかった。もとより向日葵の周りに人はいない。隣の席に座る人が、教卓の前に立つ人が誰であろうと、向日葵には変わらないも同然だった。
非合理な問題と理不尽な面接という面倒な関門を潜り、ようやく入った高校も、部活、友人、委員会といった青い人たちのパワフルさが溢れており、向日葵はそれを横目に入れることもなく、ただ家と学校を往復するだけ。
坂にかかる。足にかかる負担が極端に重くなる。向日葵は自身の横で悠々と立ち尽くす「乃木坂」の看板を睨みつけるように立ち漕いだ。
向日葵はこの看板が嫌いだ。勾配を物ともせず立っていることが理由ではない。名前が好きではないのだ。誰かのために死ぬだとか、誰かと共に死ぬだとか、向日葵には一生理解できない。
死の良しあしも、当時の価値観も、当人の思想も、向日葵は知らない。ネット上で簡単に調べただけだからだ。ただ、「ナニカ」に対して強い思いを抱くこと。向日葵にはそれがわからない。
まあもっとも、上り坂はすべて悪だが。
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