あかっぱな

 角度は十分。折り目も綺麗。今までで渾身の出来といえる紙飛行機を手に、俺はいつもの位置へやってきた。

「ちゃんと撮れてる?」

「撮れてるよ。今日は上手くいくかな?」

 リーシャオは青いケースのついたスマホを横向きにして、俺に向ける。

「なに?あんたらまたやってんの?」

 煙草の匂いと少ししゃがれた声につられて上を向くと、まさこ姐さんが窓から顔を出していた。

「ああ、今日こそやるんだ。このオリオン号であいつの鼻を明かす!」

 まさこ姐さんはため息混じりに煙を吐き出すと、呆れた声で「あいつって……。ただのピエロの看板でしょ」といった。

 確かにこの紙飛行機で狙うはピエロの看板だ。しかし、あのピエロ野郎。俺が朝起きると必ず窓越しに俺と目を合わせてくるのだ。

「桐の家から投げた紙飛行機が鼻にあたったらあの看板を取り壊すって約束してくれたからね」とリーシャオは愉快そうにいった。

「金持ちが考えることはわからんね。何が面白くてそんな約束したんだか……」

「ハッ!約束は約束なんだよ!いくぜサインボードマスター!」

 左足を前に構え、フォームを作る。

「撮ってろよリー!」

 腰を勢いよく捻り、右手を振りかぶる。そして放つ直前勢いが全て乗らないようにふわっと斜め七十度上へ浮かせる。

 俺が、リーシャオが、まさこ姐さんが、カメラが追う中、紙飛行機は宅配で忙しない自動ドローンの隙間を塗って進んでいく。電車の上を超えて、チョコ屋の看板を横切り、温泉野菜に沿って進む紙飛行機。そして紙飛行機はPNG屋の真下にあるピエロの看板を視界に捉えた。

 拳を強く握りしめ「行け!」と叫ぶ。

 あと数mというところまで行った紙飛行機がまっすぐ赤っ鼻に直撃する瞬間、横から飛来した黒い弾丸にオリオン号は攫われていった。

「あ……」とリーシャオが溢した。

 硬直する俺を他所に、まさこ姐さんが再びため息をつく。

「カラスの勝ちだね」

「そんな……。また明日だ、ピエロ野郎……」

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