心ここにあり
私の学校がある場所には、かつてお城があった。今は見る影もないが、城跡と書かれた看板と学校を囲む石垣に痕跡が見られる。私の町は渓谷に沿うように広がっており、かつてここにあった城が山のあっちと山のこっちを繋ぐ関所を管理していたというのは小学校の時に教えられる内容だ。
そんな町を、私は転々と歩く。「都会」と称されるような場所から遠く離れたここには、未だ日本家屋と呼べるような古さと埃を漂わせた建物が多くみられる。私の学校もそうだ。夏になると、窓一面にすだれがかけられる。家に帰ればエアコンがあるため、生徒は夏になると余計に帰りたがる。そんなだから、地元の子どもたちは学校のことを「寺子屋」と呼ぶのだ。
私は石垣に腰を下ろす。後ろですだちが風に揺られてカサカサと音を立てる。私は明日から高校生ではなくなる。東京で一人暮らしの大学生という、この町の人間なら誰でも羨む存在になるのだ。きっと大学を卒業したらそのまま向こうで就職するだろう。
あと何回寺子屋を拝めるのか。私の心が、ひとかけらだけ零れ落ちた。
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