落葉の季節
小学校を卒業すると、僕たちはバラバラになる。
僕たちの町には1学年1クラスしかない小学校がただ一つあるだけで、中学に上がると僕たちはそれぞれ一番近い中学校へ別れてしまう。小学校は町のほぼ中心にあり、四方それぞれに別の町の中学校があるからだ。
この町に生きる僕たちにとって学校といえば小学校で、その先で別々になったとしても、なぜか淡い思い出として永遠に残るのは小学校の友人なのだ。
僕はそんな物思いにふけながら、廃校になることが決まってしまった小学校を訪れていた。
その小学校は正門から昇降口にかけてイチョウ並木があって、秋になると生徒はその臭いに文句をいいながら、銀杏を避けて登校していた。当時を思い出しながら、僕は七年ぶりにその道を歩く。立ち入り禁止と書かれた看板が正門にあったため、人の気配はまったくしない。僕は小学生の頃のように、そこが世界の全てである風を装って校内を歩き回った。
各教室を回り、特別棟を回り、体育館の裏手に行ってプールへ辿り着いた時だった。少し間の抜けたギターの音が聞こえた。風が揺らす植物ではない音を聞いたのは久々だった。
僕はプールの西側へ来た。並木による外界との狭間であるそこからは、プールのフェンスに穴が開いているのだ。僕が小学校四年生の時に開けてしまった穴だ。修理されていないという確信があった。
なんとなく、音を立てずにそこへ向かった。そこから中を覗くと、茶色の女性。髪を茶色に染め、茶色のセーターを着て、茶色のギターを持つ女性がいた。黒のスニーカーの隣には楽譜が置かれ、風によってさわさわと動いている。ギターは直径30cmほどのアンプに繋がっていて、彼女はチューニングをしているところだったようだ。表面が削がれた飛び込み台に腰掛け、一本ずつ弦を鳴らす。
ふと、空から黄色の葉が落ちてきた。舞い上げられ、昇降口から飛んできたのだろう。彼女は手を止め、空を見上げる。
ああ、小学生の頃に戻りたいな。
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