異世界に行く力

 私には異世界に行く力がある。

 突拍子もない話だが、これは本当のことだ。いつから行けるようになったのかはわからない。幼いころは、どちらが本当の世界で、どちらが異世界なのか判別がつかず、両親は突然姿を消す私に苦労をしたようだ。

 異世界に行く方法は至極簡単だ。目を瞑り、意識を飛ばす。気絶や睡眠とは感覚的に違うのだ。遠くから聞こえる車の音や、話し声など、現実世界の現象全てから自分の身体を引き剥がすように行う。そして次に目を開けると、視界いっぱいに広がるのは緑に覆われた廃世界だ。

 その世界には明らかな人工物が並んでいる。私が住んでいる地域よりもいくらか都会で、高層ビルがいくつも見える。巨大なモールらしきものや、宗教施設のようなものもある。しかし、その全てが緑に覆われている。窓は割れ、傾き、世界には風が揺らす植物の音すらない。重厚で虚無な静寂した世界だ。見る人が見れば、人間のいなくなった世界というどこかのテレビ番組でやっていたシミュレーションを思い浮かばせるような光景だ。私も一度は異世界ではなく未来なのかもしれないと思い、同じ光景の場所を探したが、終ぞ発見することはできなかった。もっとも、諦めたきっかけは世界の都市の多さではなく、存在しない言語が描かれた看板を発見したためであり、これはかなり早期に見つけられた。

 私がこの世界を訪れる時、どのような荷物を持っていようと、睡眠時のスマホ同様もう一つの世界まではついてきてくることはない。カメラに収めたいと願ったこともあったが、今では独占欲が私の指先まで満たしている。

 荒廃した異世界を何回も訪れ、何日も歩き回る度に、私はいつも恐怖心にも似た確信を抱く。私が本当に生きるべき世界はこちらなのだと。

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