海騒

 海に沈む鋼鉄の神社を、私はいつも夢見ている。

 初めてそれを見たのは、確か両親に連れられて水族館に行った日の夜だった気がする。私は疑似海を泳ぐ魚たちではなく、自然を金属とガラスで再現した、人工的であまりにも自然的すぎるその空間に違和感を覚えると同時に、どこか完全性を覚えたのだ。

 瞼を閉じ、世界の果てですら到達し得ない遥か向こうに意識が旅する時、私が最初に感じるのは息苦しさだ。視界に満開の青が広がっていて、下方に広がる無限の奈落から浮かび上がってくる蠢く気泡を見て、ようやくそこが海中なのだと理解する。周りには何も見えず、海中の旅は不安と高揚感を与えてくれる。けれど、どの方角に向かっても終着点は同じだ。いや、正確に言えば私は確信をもって何もない海を泳いでいるのだ。私と鋼鉄の神社にはどこか共鳴しているものがあって、それは運命の人との出逢いよりも強く神秘的なものだ。

 海底から海上まで伸びるそれは、明らかに鉄で作られていた。ところどころ表面が削れ、内側の黒を反射させているが、錆はどこにも見当たらない。表面は規則的に凸凹が作られていて、明らかに自然的なものではない。一見すると工場の壁にも見える。しかし、それの重厚感は奥深く、私にはこの大きな鋼鉄の塊の中が、全て未知で絢爛なものが詰まっていると感じずにはいられない。

 鋼鉄の壁は左右に分かれており、真ん中には私を誘うかのように道が開けている。その奥は長く、底知れぬ海底と同じ暗黒を仄めかしている。

 この向こうには何がいるのだろうか。それはかねてより私を見初め、遥かより私を求める超自然的で常識を塗りつぶす法則性の塊に違いない。私はそんな彼の者に恋い焦がれているのだ。

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