天空の踊り場

 錆びついた柵に片手をかけ、階段をゆっくりと下る。標高2000mにあるこの天空の階段はその先を雲海へと沈ませ、その神々しさを私に教えさせる。50年前に作られたこの兆候所にある天空展望台は、10年ほど前にあった超度電脳転換期による人間の精神の電子化による現実の腐敗と共に放置された。不老不死の電脳空間に逃げなかった少数派の人々だけでは維持できなかったからである。

 私の父は、きっと向こうで私がやってくるのを待っているだろう。母のコピーと一緒に。

 向こうに展望台はあるのだろうか。私は、かつて父がよく連れて来てくれた展望台を見ながら考える。

 きっとないだろう。向こうの世界では天気も星の巡りも自由自在なのだから。

 ようやく7段ほど下って、踊場へとたどり着いた。

 後数段下れば、雲海の中だ。

「明日は雨かな」

 私がそう呟くと、雲は風に流れ、途中でその道を失った階段の始発が見えた。

 展望台に戻ってエレベーターを使わないと。私はそう考えて階段を下っていった。

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