緑と階段の街
小さなスコップと小さなバケツを持って、ゆっくりと階段を下っていく。心持ちらせん状になっている果てしない階段には、どういった物理法則か、木の枝にしがみつく葉のように家が連なっていた。中には土台から飛び出したものまであり、建築学に明るくない私にはそれがどうやってくっついているのか、いつも不思議しょうがなかった。
街中を流れる小川が見えるところまで下がってくると、そのすぐそばで小川をじっと見つめている僕の友人を発見した。
「おーい」と僕は上から声をかけた。
彼女は顔を見上げると、手を振り返してくれた。
僕は一段飛ばしで階段を下りていく。呼吸が乱れるころには一番下まで到着した。
依然としてしゃがんでいる彼女の隣には、僕と同じく小さなスコップと小さなバケツが置かれていた。
「ここでなにしてるの?」僕は訊ねた。
「日差しが納まるまで待ってるの」彼女は小川が流れる先を指さす。それは鏡のように反射して、家々の隙間から顔を出す植物の屋根の下にいる僕たちまで日光を届けて来た。
小川と並行に伸びる道は直射日光の格好の餌食となっていて、小川と道を挟んだ草原の向こうに、大きなパイプを張り巡らして、黒い煙を吐く鉄の巣が見える。
「緑屋さんってどうしてこう遠くにあるんだろうね」僕は彼女の隣にしゃがんでいった。
「ここに住んでる人は種も苗も要らないからでしょ」
「緑屋さんが商売できるのは僕たちが植物を育ててるからじゃん。じゃあ、逆宅配で受け取りに来てくれてもよくない?」
「確かに。あそこって鉄の車が自動で走ってるらしいもんね」
「なおさら取りに来てほしいよ」
「じゃあさ」と彼女は一息言葉を切った。「大人になったら私たちで宅配のお仕事しよっか」
「……どういうこと?」
「だから、例の鉄の車で鉄の巣と緑の塔を行ったり来たりして、緑屋さんに種とか苗とかお届けする仕事。儲かりそうじゃない?」
「確かに。でも鉄の車って買えるの?」
「それは……なんとかする!」
「なんとかって」
「そしたらみんなもこんな憂鬱な気分味合わなくて済むでしょ」
「まあ、それは確かに」
「だから、約束ね!」
僕は彼女と指切りをした。多分こんな何気ない約束なんて、将来忘れてしまうんだろうなと思った。
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