第192話 元勇者で伯爵令嬢様は御怒りです! 

「もう、本当に。本当に知らないのだから。一樹の事なんて本当に……」


 元勇者のエルは、夫の一樹の事……。


 そう、自身の父である更に元勇のゲインと余り変わらぬ、女性に対してだらしの無い、夫一樹の不満を独り言。


 それも彼女は、青い空の中をジェット戦闘機の如く速さで飛びながら、独り言。


 そして不満を漏らし飛ぶのだ。


 アニメや漫画、特撮ヒーロー物の主人ヒーロー達のように勢い良く、風を、空気を、切り裂きながら飛ぶ、飛びぬけるものだから。


「くそ、くそ、歯痒い。歯痒いよ……。私は絶対に、お父様のような、異性にだらしない男。男性とは結婚等しない。する気はないと心の固く誓っていたのに。だから今迄に、他の家の者。貴族の男達とのお見合いをことごとく断り。求愛も全部拒否してきたのに。私の一樹があんな調子だから。他の家の名家の男達と、お父様やお母様言う。勧める。お見合いを受けて会話、話し。逢引きをしても状況が余り変わらない。私の人生は全くと言って良い程。この世界、日本でも変わりはないではないですか」と。


 元勇者、伯爵令嬢。


 そしてエルフな新妻さまが、不満と愚痴、嘆けば。


 あっと言う間に、自分の家……。



 そう、彼女の日本での戸籍上でも既に夫である一樹と二人での愛の巣。


 アパートの近くの徒歩五分もかからない裏山へと到着するのだ。


 だから元勇者エルは、人目のつかない場所へ降下──地面へと着地、降り立つのだ。


 でっ、降り立てば、『ショボン』、気落ち落胆しながら俯き。


『トボトボ』と、足音を立てながら。


 自分達の住居へと戻るのだ、元勇者エルはね。


 だって、夫一樹に対して一応不満も漏らした。


 そして彼女自身の荒々しくなっている気も収まらないから、夫の顔面にめがけて頭突きもした。


 でっ、その後に、夫一樹に対して実家に帰宅をさせてもらいますと告げた! 啖も切った! 切ってしまった元勇者エルだけれど。


 この異世界日本からゲートを開けて、自国へと帰る。帰還をする事が出来るのは、彼女の夫である一樹が魔王化しない限りは無理なのだ。


 それに、貴族の男性に側室、妾の女性がいる事は良くある話しであり、普通の事なのだ。


 彼女が産まれ育った世界ではね。


 ましてや、自身の夫一樹は、彼自身には記憶は無いのだけれど。


 自分の仇敵だって魔王で間違い無い存在なのだ。


 そんな、魔族の王に側室一人に、次期子供が生まれるぐらいならば、少ないくらいで、元勇者エル自身も我慢ができる、耐え忍べる許容範囲なのだよ。


 それにさ、夫と別れると言っても、もう三週間ぐらい。


 もう直ぐクリスマスや大晦日、お正月がくるこの時期までは一緒に寝食を共にしている。


 彼に、夫に尽くし。


 夫の許から離れ離れになるのが嫌になるくらい毎日、愛し、可愛がってもらい、愛を注いでもらっている、元勇者エルだから。


 やはり里帰りは安易にはできないのだよ。


 夫である一樹の事が好きで仕方がない彼女だから。


 致し方がないかと、思う事にしてアパート戻り、夫、一樹の帰りを待つことに決めて歩き始めたのだ。


 まあ、一樹が帰宅をすれば、未だ収まりつかない、高ぶった気を和らげる為に、もう少し、夫へと不満や嘆きは漏らしてやろうと思いながら。


 自分達二人の愛の巣へと向かう。


 元勇者エルだったのだ。



 ◇◇◇

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