第191話 帰宅してみたけれど

〈カチャ、カチャ〉


〈ギィー〉と。


 アパートの玄関の鍵を開けた僕は、自身の両目に映る部屋──。


 真っ黒、暗闇、漆黒色に覆われたキッチンを、自身の瞳を動かし注意深く観察をしたのだ。


「ただいま」と。


「只今帰ったよ。エル」と。


 僕は言葉を漏らしながらだ。


 でも、僕の元勇者であり、エルフな宇宙人のお嫁さま、エルの姿は見当たらないし、声も返ってこないから。


 僕の予想通りで、独り言になってしまったようだ。


 う~ん、それでも?


 キッチンの奥にある和室二部屋のどちらかで、エルが転寝、お昼寝、ではなく。


 もう日も暮れかけている、夕刻の五時だから。


 夕刻寝と、呼んだ方が良いのかな?


 家の奥さまが、転寝をしているようだったら。


 僕は、こんな事を脳裏で思い。


 気晴らししながら、最後の望み……。


 そう、僕の妻エルが。


 夫の僕を捨て、置いて、実家、里帰りをする事も無く、二人の愛の巣。


 このアパートで、夫の僕の帰り、帰還を待っていてくれているかも知れない。


 小さな希望に僕はかけて、恐る恐る、抜き足、差し足と。


 僕は足音も、出来るだけ立てずに、キッチンから奥の部屋──。


 和室の二部屋へと忍び込んだのだ。


 もしも僕の可愛いエルフな妻が寝ていれば。


 また、いつかの時のように、僕はエルを強引に取り押さえて、前回の時のように、ないないづくしで。


 僕の側からエルが二度と離れたくならないぐらい、奥さまに愛情を注ぐ。


 それも夜明けまで。


 僕のエルが足腰立たなくなるぐらい。


 前回の時のように頑張ろうと思い。


 奥の部屋へと踏み込んでみたのだが。


 やはり僕のエルフで宇宙人な奥さまの容姿、寝姿が見当たらないのだ。


 だから僕は、気落ち落胆……。


 その場にへたり込んで。


「エルー! 頼むから帰ってきてよ。お願いだよ。僕が悪かったから許しておくれ。エルー!」


(わぁ~ん、わぁ~ん)と。


 僕はエルに帰ってきて欲しいと願いながら、泣き叫ぶ事しかできなかった。



 ◇◇◇

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