第186話 鼻血ブーな僕……

「か、一樹ー! い、今の! 今のはぁ、何? 人が! 人が空を飛んだぁっ! 飛んだぁ、と、言うか? あなたぁ、どうしたん。その鼻? 鼻から血が出ているじゃんかぁ。一樹?」と。


 僕のエルが。


 奥さまが。


 飛んだ! 飛びだった姿、容姿、様子を多分、翔子は見たのだろう?


 僕が青空に向けて叫び、叫び終えて、呆然と空を見上げて涙を流していると。


 翔子の奴が僕の二の腕を掴み引っ張りながら問いかけてきたので。


 僕が後ろを振り返ると。


 今度は翔子の奴は、僕が鼻血ブーと、垂れ流している最中の様子を目にして驚愕──!


 そして叫ぶ──!


 叫び終えれば、自身の瞼を大きく見開き。


「もしかして一樹泣いているの?」


 と、尋ねてきたのだ。


「当たり前じゃろぅがぁ。自分の女房が俺と別れる。離婚する。そして里帰り。実家に帰ると荒々し告げられてのぅ。この場からおらんようになったんでぇ。それで悲しまん。泣かん夫が何処の世界におるんじゃ」と。


 僕は翔子に対して、自身の腕で、涙と鼻血を拭きながら不満を漏らした。


 だから僕の右腕は、自身の鼻血で真っ赤に染まり汚れてしまったのだ。


 ……だけならば良いのだが。


 僕自身の鼻血は未だ止まらず垂れ、流れている状態だから。


 僕自身が何とも情けない姿でいたのだと思う。


 だから翔子の奴は、「ほらちょっと、ちょっときてみんさいやぁ」と、僕に告げながら二の腕を引っ張り。


 僕のボンゴへと連れて行き、着けば。


 ボンゴの扉を開け。


「ちょっと待っときんさいよぉ」


 と、言葉を漏らせば。


 助手席のダッシュボードの上に置いてあるティッシュペーパーを二三枚、指で掴んでとり、丸め始め。


 終われば僕の鼻へと『ギュッ』と突っ込んできたのだ。


 だから僕は「痛い」と、翔子に不満を漏らした。


 でも彼女は、僕の不貞腐れた顔や不満の言葉を聞いてもいつも通りで、全く気にもしない。


 相手にしない。


 いつもの姉さん女房を気取る態度で。


 そう、エルの事で心が傷ついている僕へと、いつもの優しい笑みを漏らしくれながら。


「これでええわぁ。次期に鼻血の方も止まるじゃろうけぇ」と。


 自身の腰に手を当て、首肯しながら告げてきたのだった。



 ◇◇◇

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