第185話 自宅に帰る? それとも里帰り? 

『帰る! 帰るのだ!』と。


 憤怒しながら僕へと告げてきたエルなのだが。


 僕のエルフで宇宙人な奥さまが帰る。


 帰還をするのは、僕とエルとの愛の巣、2LDKのアパートへと帰る。


 帰還をする、ではないよね?



 そう、あの家の奥さまの怒り、憤怒、憤慨。


 自身の麗しい顔の眉間に皴を寄せ、『はぁ~。何ねぇ。あんたはぁ?』と、斜め45度での睨みを入れ、険しい顔で、夫の僕へとガンをつけてきて。


 最後には頭突きもしてきたぐらいだから。


 エルは絶対に里帰り。


 宇宙へと帰ってしまうのかも知れない、ではなくて。


 帰るに違いないと思うから。


 僕は、自身の鼻から垂れる、流れる、鼻血を手で拭き、抑えながら慌てて、マツダのボンゴから降りて、上空を見詰めながら。


「──エルー! お願いだー! 帰ってきてー! 帰ってきてよー! 僕の許。胸元へと帰って飛び込んできてよー! お願いだからー!」


 僕は情けない声音で叫び、呼び、嘆願をしたのだ。


 家の麗しい奥さまに帰ってきて欲しいと心から思い、願い。


 このまま降下して、僕の胸へと飛び込んでもらいたい。


 きて欲しい衝動に駆られている僕のだから叫んだのだ。


「煩い! 煩い! 一樹なんかもう大嫌いー! 別れる! 別れるのだから私は一樹と! だから一樹サヨウナラ。私はもうあなたの妃をするのはやめて実家に。里へと帰らせてもらいます」と。


 エルは! 家の奥さまは! 夫の僕の放つ嘆願と許しを乞う台詞に対して聞く耳持たずに、真っ昼間から空の彼方──。


 青い空に浮かぶ雲の中へと消えていなくなってしまったのだった。



 ◇◇◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る